★スペイン、低所得世帯に最大月12万円 コロナで計画加速
Jun 6 2020
https://newsphere.jp/economy/20200606-1/

 新型コロナウイルス感染が拡大したスペインでは、ロックダウンの影響もあり、生活に苦しむ人が増えている。
政府は弱者救済のため、ベーシックインカム(BI)制度を閣議で承認した。
これまで各国でBIの可能性が議論されており、パンデミックを機に制度を導入する初の国として注目を浴びている。

◆コロナ前から格差拡大、貧困層増加

 今回の決定は、国民全員に一定額を給付するユニバーサル・ベーシックインカムとは異なり、実質的には最低所得保障となる。
収入と扶養家族の数によって給付額が決定され、85万世帯に、月462ユーロ(約5万7000円)〜1015ユーロ(約12万6000円)の給付を予定している。
スペインの人口約4600万人のうちの250万人が対象となる。

 スペインは、社会労働党と急進左派ポデモス党の連立政権となっており、最低所得保障は選挙前からの公約で両党連立合意の中心だった。
恒久的な導入を計画していたところ、新型コロナによる経済悪化で加速される結果となった。貧困はすでにパンデミック以前からスペインの構造的問題で、
全世帯の5分の1の380万世帯が貧困ライン以下にあり、ほかのEU諸国と比べ、所得の再分配も進んでいなかった(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)。

 スペインの失業率はEUでも最悪レベルで、3月末時点で労働人口の14.5%が失業中だった。さらに現在300万人が一時的に休職扱いとなっている。
休職者となってから6ヶ月間は解雇されないことになっており、その期間が明ける秋に解雇が進む可能性がある。

◆財源、労働意欲の低下 給付の問題点も

 制度が本当に機能するのか疑う声もある。ブリュッセルのシンクタンクのシニア・フェロー、Zsolt Darvas氏は、
給付によって働かず家にいることが助長されるようなら間違いだとする。失業しそうな人を助け、企業の解雇を食い止めるための策になるべきで、
給付を受ける人が働くことが前提だと考えている。フィンランドやイタリアでも同様のプログラムが実施されたが、
給付で失業率が低下するという証拠は得られなかった(CNBC)。
FTも、働く時間を減らすより増やすインセンティブをどのように人々に与えるかという部分が、政府の計画において明確になっていないと指摘している。

 スペインの社会政策の研究者、Joan Cortinas-Munoz氏は、現在のような危機において、金融市場、銀行、国際的金融機関からのプレッシャーがあるなか、
BIを始めることを疑問視する。さらにそういった制度は財政的に長期にわたって持続可能であることを、政府は保証しなければならないとしている(フランス24)。

 スペインの王立エルカノ財団のFederico Steinberg氏は、新政策には経済の現実に対処できるかどうか、そして財政へのインパクトという二つの議論があるとする。
不平等の是正には給付は良い考えだが、同時に改革も必要だとする。スペイン中央銀行の総裁も、コロナ後の財政を回復させるためには、
経済成長のための構造改革が必要で、歳出を賄うため、税基盤を広げることが必要だと話している(CNBC)。

◆欧州で広がるBI支持 弱者救済に共感

 BIに賛成する人は、給付が経済的不安から弱者、とくに通常のセーフティネットから外れたフリーランス、パートタイマーなどを保護すると主張する。
また、不景気に入った経済を再生する機会にもなるとも述べる。オックスフォード大学の調査では、欧州では70%の人々がBIのコンセプトを支持している(フランス24)。

 しかし左派の一部からは、政府の所得保障を盾に雇用者が労働者に低い賃金を提示する可能性もあり、労働市場の保護が弱まるという警告もあるとしている。
また、BIは医療費、住宅費などの生活保護に置き換わるはずとされているが、
極端な貧困に陥るのを防ぐセーフティネットとして、生活保護は必要だという考えもあるという(同上)。

 経済学者でもあり、スペインの社会保障を担当するホセ・ルイス・エスクリバ大臣は、現時点で最低所得保障に反対することは難しいとし、
議会は承認するだろうと述べる。この政策は税収が足りない時期に、いかに最弱者に手を差し伸べるかという点で、各国の手本になると自信を見せている(FT)。