新型コロナウイルスの感染拡大に伴い「新しい生活様式」が求められる中、引きこもり支援の在り方も変わりつつある。緊急事態宣言による外出自粛で、支援団体などが定期的に開いていた当事者や親のための集まりは中止が相次ぎ、オンライン開催が主流に。宣言解除後も第2波が警戒される中で有効な手段とされる一方、当事者が隣の部屋にいるため親が話しづらいなどの課題も浮き彫りになっている。(小川恵理子)

ZOOMで当事者交流

 「仕事を探さないといけないが(コロナで)行けないのが悩み」

 「人と話すのは苦手なので、話を聞いているだけでもおもしろい」

 宣言発令中の5月半ばに開かれた、引きこもり当事者らの「オンライン居場所」。テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」を利用して、近畿や広島、香川に住む当事者や支援者の男女7人が参加した。音声のみの会話が大半で、中には画面上で短い文章をやり取りするチャット機能を使った参加者も。約1時間半、近況報告や引きこもり支援の情報収集の方法、感想について話し合った。

 企画したのは、自身も引きこもり経験者で、当事者支援を行うNPO法人「グローバル・シップス こうべ」(兵庫県姫路市)代表の森下徹さん(53)。今年2月から全国の支援者仲間とともに月4回ほど開催しており、「どこに住んでいても参加できる。対人や衆人恐怖症の人もいるので、外出や顔出ししなくてもいいのがメリット」と語る。


親ら「話しづらい」課題も

 感染拡大に伴い、当事者会などをオンラインに切り替える団体が相次ぐ。当事者会は、社会復帰や人との交流を取り戻す足掛かりになる場だが、つながりが途絶えると、外に向かっていた気持ちが再び内に向くことが懸念されるためだ。

 NPO法人「CNSネットワーク協議会」(東京)は、中止していた当事者会と家族会を4月からオンラインで再開した。後藤美穂代表理事は「当事者も親も、たとえオンラインだとしても誰かと話す機会があった方がいい」と説明する。

 ただ、オンライン開催は当事者会よりも親の会の方が課題も多いようだ。「自分も話さなければというプレッシャーがある」「隣の部屋に本人がいて話しづらい」といった声が寄せられ、参加者も減少した。
 そのため、参加者は音声を切った上で顔や名前は映さず、職員2人が対談形式で会を進行。2人のやり取りを参加者が画面を通して見聞きし、質問があれば職員とチャットでやり取りする方式だ。その結果、参加者は増えたという。

 今後は、カウンセリングなども増やしていく予定で、後藤代表理事は「利用してもらいやすいように工夫を重ねたい」と話した。

行政も試行錯誤

 新型コロナ禍の引きこもり支援をめぐっては、行政側も相談窓口を電話相談に限定したり、オンラインの当事者会を導入したりして支援を継続する。

 各地に設けられている「ひきこもり地域支援センター」のうち、京都市や和歌山県にあるセンターでは緊急事態宣言が発令された4月以降、原則来所による相談を中止し、電話による相談に切り替えて対応を続けた。


 奈良県では、感染対策をした上で親の会や来所による相談対応を継続。担当者は「対面での支援を望む人もおり、できるだけ普段通りの対応を続けたかった」と明かす。

 滋賀県のセンターはZoomで初めてオンライン当事者会を開催。参加者の反応もよく、担当者は「手応えを感じた」という。ただ、現状は一度に参加できる人数が限定されるほか、センター側のネット環境も十分ではなく、「第2波が来ても対応できるよう準備したい」と話した。

産経新聞 2020.6.24 11:30
https://www.sankei.com/life/news/200624/lif2006240014-n1.html