2020.7.5 10:00
https://www.sankei.com/smp/premium/news/200705/prm2007050002-s1.html

 前向きな気持ちが花粉症などのアレルギー症状を改善させるという研究結果を山梨大の中尾篤人教授(免疫学)らの研究グループが発表し、欧州アレルギー学会誌「アレルギー」のオンライン版に掲載された。「病は気から」の科学的根拠をめぐっては、ストレスが体調不良につながるメカニズムは解明されつつあるが、逆にポジティブな思考が体にいいという結果は注目される。(渡辺浩)

 中尾教授によると、花粉症や気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎などの新薬の臨床試験では、患者が偽薬が効いたと信じ込む「プラセボ効果」が他の疾患の薬より高く出ることが知られており、患者の気持ちがある程度影響するとみられていた。

 そこで研究グループは、マウスを使い、前向きな感情を脳内でつかさどるドーパミン報酬系と呼ばれる神経をさまざまな方法で活性化し、アレルギー反応の影響を解析。その結果、いずれも通常より2、3割程度症状が軽くなったという。

 中尾教授は「ポジティブな精神状態を生み出す特定の脳内ネットワークが、アレルギーを生じさせる免疫の仕組みと密接にリンクしていることを直接的に証明した世界で初めての知見」としている。

 「アレルギー疾患の治療は、もちろん薬を適切に使うことが第一だが、患者さんが前向きな気持ちを保ち続けることも大事であることが研究で示された」と中尾教授は話す。

 今回の研究に携わり、この春から福島県立医大に移った中嶋正太郎講師は「私は高校生の頃から花粉症に悩まされてきた。学校の成績の落ち込みや失恋で精神的にかなり不安定な状態だった」と振り返る。

 研究結果を受けて「今思えば、もっと明るくポジティブに日々を送っていたら良い方向に進んでいたのではないかと思う。これからも、こうした体の仕組みを明らかにしていきたい」と語った。

 「病は気から」の研究では平成26年、大阪大のグループがストレスが免疫力を低下させるメカニズムを交感神経の働きから証明。29年には北海道大のグループが、ストレスで起こる脳内の炎症が胃腸の病気や突然死につながる仕組みを解明している。

 ストレスの反対である前向きな気持ちが体にいいという考えは、書店に並ぶ健康本や自己啓発本に目立つ。平成7年にはプラス思考で出る脳内ホルモンが心身の最良の薬だと主張する本がベストセラーになったが、学術的な研究はあまりなかった。

 中尾教授は「前向きな気持ちは、免疫の過剰な反応であるアレルギーを抑える一方、ウイルスへの正常な免疫の働きを高めると考えられるので、新型コロナウイルスなどへの抵抗力は上がるはずだ。脳と免疫の関係を今後も研究したい」と話している。