プロの格闘家として活動していると、「どうしたらそんなに強くなれるのか」とよくたずねられます。ところが僕の場合、聞かれているのはどうも格闘技における「強さ」の身に付け方ではない、とよく感じます。

 むしろ「弱さ」を克服して自信をつけたい、他人に「弱い」人だと思われたくない、人に流されたくない、というような、万人に共通する悩みをどうやって解消したらいいかを、みなさんが知りたがっているという印象を受けました。

 僕自身も、もともとの性格は飽きっぽくて意志が弱く、1つのことをやり通せるような「強い」人間ではなかったので、そういう悩みにはとても共感します。

 今回は、少年院を出てから総合格闘家を目指し始めてからの10年間、強くあるために日々試行錯誤を重ねていく中で見いだした、「弱い」人に共通する3つの特徴についてお伝えできればと思います。

■弱者は「自分の感情に振り回される」

 「弱さ」とは、力や能力で他人に劣ることだけではありません。自分の感情に負けてしまうことも、「弱さ」の1つです。

■「客観視」ができなければ、勝負に勝ちきれない

 僕が「客観視」を意識するようになったのは小学生のころです。あるとき両親がビデオカメラを買ってきて、僕の動きを撮影してくれました。そして、そこに映っていた自分の動きを観て衝撃を受けます。想像していた自分の動きと、画面に映る等身大の自分の動きが、まったく一致していなかったんです。

 自分でうまくできているつもりでも、実際にはできていないことがたくさんある。そのことに気づいた僕は、ビデオで自分を撮影することにハマり、あらゆる動作を自分で検証するようになりました。そして、思い込みと現実のギャップを埋めることで、自分の弱みを潰し、新たな強みを身に付けることができるようになりました。この徹底した「客観視」の訓練が、後の格闘技生活に大きく役立ちます。

 逆に言えば「弱い」人というのは、自分のしたい動きだけをしてしまう人、自分のイメージどおりに物事が進むと思い込んでいる人のことだと言えるでしょう。

 「空間的想像」で入念に対戦映像を分析すると、攻撃の軌道や回避の癖など、外から観ているだけではわからない相手の細かな動きが、だんだん具体的に見えてきます。

 「弱い」人は相手を分析しようとしても、ただ映像を漫然と見てしまうことが多い。自分ならどうするか、自分の視界からはどう見えるか。それをつねにシミュレーションすることで、臨機応変に対応できる「強さ」が生まれるのです。

■目的意識が曖昧だと、準備がや練習も非効率的に

 これは、格闘技に限らず、多くの物事に共通する問題でしょう。

 多忙なビジネスパーソンならみなさん同じ境遇だと思いますが、僕も試合や練習だけに時間を使えるわけではありません。睡眠時間も平均7時間は確保しているため、必然的に練習や準備の時間は限られます。

 そうなると、「練習」は短い時間で効率的に行わなければなりません。そのためには、やはり「実戦」をつねに想定することが大切なのです。

 僕は2時間の練習時間をどれだけ有効に使うかを考えた結果、「総合格闘技の試合で勝利することに直接結びつかない練習」はしないことにしています。

 基礎練習は大事、と思う方もいるかもしれませんが、実際の勝利に貢献しているとは限りません。身体に負荷をかけて「練習をした気になった」としても、試合で勝てなければ無意味なんです。

 結局、何かを達成したいとか、何かを克服したいというような、明確な目的意識が大切なんです。目的さえはっきりすれば、自動的にやるべきことも明確になりますから、コミットすることができます。

 目的意識をしっかり持つために大切なのは、今取り組んでいることが本当にやりたいことなのかどうかの再確認です。結局、本当にやりたいことでなければ全力をぶつけることはできないでしょう。

 そして、取り組んでいることが本当にやりたいことであれば、どんどん成長することができます。やりたいことではないのになんとなくやめることができず、ずるずると続けてしまう、というのも「弱さ」の表れです。

もちろん、疲弊したときはしっかり休息をとって、モチベーションを回復させましょう。

 心身ともに余裕を持ち、本当にやりたいという意欲を持って物事に取り組むこと。それができれば、「弱者」は自然と、「強者」に生まれ変わっているはずです。
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