トランプ米政権は、受講する授業がすべてオンラインの留学生に学生ビザを発給しないとした7月6日の措置について、14日、撤回することを表明した。ビザ発給制限の発表以降、学生たちは失望し、大学は抗議の声を上げていた。8日間の混乱を振り返る。

 中国の成都にいたショーン・シーさんは、8年前に渡米した。米国で高校を卒業し、最終的には電気工学の修士号を取得したいと考えていた。

 現在24歳のシーさんは2019年10月、その夢の実現に着実に近づいた。ミシガン大学の大学院に合格したのだ。学生ビザの手続きも済ませて、今秋にはミシガン州アナーバー市で大学院生としての生活を始める予定だった。

 ところが、新型コロナウイルスのパンデミックのさなか、目標への道を閉ざすような出来事が起きた。米移民税関捜査局(ICE)が学生ビザの発給制限を発表したのだ。対面式の授業を履修しない限り、留学生は国外退去を迫られる。また、現在国外にいる留学生は再入国ができなくなる。

 現在米国に滞在している100万人以上の留学生(米国で高等教育を受けている学生のおよそ5.5%)が、在留資格を失って、これまで積み重ねてきた学業を捨てるか、それとも健康上のリスクを負ってでも対面授業を受けるかという難しい選択を迫られることになった。

 シーさんのような状況にある多くの学生にとって、対面での授業に切り替えることは簡単ではない。大学側は、学生や教員を新型コロナウイルス感染症から守るため、オンライン授業と対面での教育を組み合わせる努力をしているものの、シーさんは、自分が履修する予定の授業は受講者数が多いため、おそらくオンラインになるだろうと言う。「要件を満たすような対面授業を受けられるかわかりません。つまり、8年も住んだ米国を離れなければならないかもしれないということです」

■提訴に踏み切る大学も

 7月6日の措置を受けて、ハーバード大学およびマサチューセッツ工科大学(MIT)はトランプ政権を提訴した。ICEおよび国土安全保障省(DHS)による今回の措置の執行差し止めと、措置が違法であるとの判断を裁判所に求めるものだ。他にもコロンビア大学、ノースウェスタン大学、デューク大学、エール大学、マサチューセッツ大学などが、この訴訟への支持を表明する書面を提出した。

「予告もなしに命令が下されました。あまりに残酷であり、それ以上に無謀です」とハーバード大学のラリー・バコウ学長は述べた。同大学では、5000人の留学生が影響を受けることになる。「今秋にはキャンパスで対面授業を行うよう、各大学にプレッシャーをかけることが目的であるように思います。学生、教員、その他の健康と安全を考慮していません」

 事実、7月6日のビザ発給ルールは米疾病対策センター(CDC)のガイドラインに反すると、複数の大学が指摘している。CDCは、新型コロナウイルスの感染率と致死率を下げるために、ソーシャルディスタンスを保つこと、大規模な集会やイベントを避けること、マスクを着用することなどの指針を示している。

「MITの強みは人にあります。出身地がどこであろうと関係ありません」と、MITのラファエル・リーフ学長は話す。「留学生としてこの国に来るときの気持ちを、私は経験から知っています。進学に胸躍らせながらも、家族と何千マイルも離れる不安を抱えているものです。私はまた、世界で最も優秀で、才能があり、意欲の高い学生たちを迎え入れることが、米国の本質的な強さの一つであることを知っています」

 エール大学法科大学院長のヘザー・K・ガーケン氏は、同大学院では留学生が在留資格を保てるよう十分な数の対面授業を提供しているとの声明を発表した。また、もしも秋学期中に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、オンライン授業へ移行することになった場合には、留学生に1対1の授業を行うことを申し出ている教員が複数いたという。「同僚の一人は、いざとなれば雪が降る中で外に出てでもやるつもりだ、と言いました」とガーケン氏は述べている。

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