ヒトの遺伝子では数多くの四重らせん構造のDNAが働いている
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健康なヒト細胞において四重らせんDNAを初めて発見しました。

四本の鎖からなるDNAは、癌細胞や研究室内での化学実験でその存在を知られていましたが、正常なヒト細胞で視覚化されたのは今回が初めてです。

今回の発見により、私たち人間の細胞はDNAを通常の二重らせんに加えて、四重らせん形態でも運用していたことが明らかになりました。

論文の第一著者であるアントニオ氏は、今回の発見が、二本鎖DNAを中心とした現在の生物学を再考するキッカケになると述べています。

四重らせんDNAは、私たちの体の中でいったい何をしているのでしょうか?

■ 四重らせん構造はタンパク質の増産を予約する

生きた健康なヒト細胞で四重らせんDNAが活動していることがわかった
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これまでに行われた四本らせんDNAの検出は主に、死んで固定された細胞や、高濃度の検出薬で瀕死に陥った細胞でのみ行われてきました。

しかし新たに開発された蛍光検出薬は低濃度でも運用可能であり、生きた健康な細胞内での四重らせんDNAを視覚化し、リアルタイムでの追跡を可能にしました。

その結果、四重らせん構造は、需要の高いタンパク質をコードするDNAを二本鎖からほどいた状態にすることで、タンパク質生産を促進している可能性があると分かったのです。

DNA分子は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つの核酸塩基で構成されていますが、グアニンだけは自身と結合することが可能であり、グアニンが密集した領域では通常と異なる四本鎖DNAが構成されるのです。
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また調査により、この四重らせん構造は、細胞の分裂期など、必要とされるときだけに形成されることがわかりました。

すなわちガン細胞のような一部の調節能力が失われた細胞では、常に四重らせんである一方で、通常の細胞では活動期以外は二重らせん構造に収まっているようなのです。

研究者は、常に四重らせん構造を抱えることは、細胞にとっては負担が大きいと考えています。

■ 四重らせん構造は遺伝子のメチル化の標的部位だった

メチル化された遺伝子は働きが抑制され、ギュッと固まった不活性体になる
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通常、このようなDNAの活性量を調節する機能は、親から引き継がれる「DNA情報に依存しない遺伝子の活性調節」(エピジェネティック)が担当します。

エピジェネティックは古典的なメンデルの遺伝法則に反する遺伝方法として知られており、親が後天的に獲得した形質を、遺伝子の活性量調節を通して、子孫に伝えることも可能にします。

親の体内(生殖細胞)において、メチル化された遺伝子は、不活性化し生まれてくる子供でも働きにくくなるのです。

これら抑制は、DNAの塩基配列を書き換えないままに遺伝子の働き具合を調節可能にする方法と言えるでしょう。

今回の研究ではでは、四重らせん構造はタンパク質の増産を予約する一方で、メチル化(抑制)の標的部位であることが判明しました。

■ 四重らせん構造をとる場所はヒトの遺伝子数より多い

あらゆる遺伝子が四重らせん構造の調節を受けていると考えられる
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実はヒトの遺伝子数が2万個である一方で、全DNA内部で四重らせん構造をとる部位は70万カ所も存在することが知られています。

ヒトのDNAは思った以上に、四本らせん構造の制御を受けているのでしょう。

今後は既存の遺伝子と、四重らせん構造の関連が解き明かされていくと考えられます。

「DNAといえば、二重らせん構造」と考える現在の常識は、時代遅れになるかもしれません。

研究内容はイギリス、ケンブリッジ大学のマルコ・ディ・アントニオ氏らによってまとめられ、7月20日に学術雑誌「Nature Chemistry」に掲載されました。

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