地鳴りの様な音で母子が目を覚ましたのは、令和2年8月3日深夜2時過ぎのことだった
「お母ちゃん! 怖いよ! 怖いよ!」
「大丈夫だよ。なんだろうね…」
地鳴りはますます大きくなり家に近づき、しまいには家を取り囲む様に不気味に鳴り響いた
母子がそれは地鳴りではなく「コーロナー」「コーローナー」という数千もの呪詛の呻き声だと気づいた瞬間
メキメキ! バキ!
と戸が破られ、筋骨逞しい若い男が数人、バールを手に土足のまま家に上がり込んできた
「キャー!」
「なんですか! あなたたちは⁉�v
コロナー、ころな、コーロナーと念仏のごとく繰り返される群衆の声は止むことなく、暗闇から初老の男が家にこれまた土足で上がり込んできた
「おめ、コロナだべ?」
人間の感情というものを一切消し去った冷酷な表情で初老の男が母親に低くたずねた
「コロナ? なんのことですか!」
「とぼけるでね、ダンナはどごだ? お?」
初老の男は母親の顎に人差し指をかけ、くいっと顔を引き上げた
「主人はここにいません! 東京に赴任して半年ここには帰っていません!」
男は「ふん」と鼻で笑い、若衆に顎をしゃくった
一様に手拭いで頬被りした男たちが、ドタバタと家に上がり込み、台所といい風呂場といい遠慮会釈なくものをなぎたおしながらあちこち探り始めた
食器の割れる音、家具の倒れる音が耳をつんざく
「お母ちゃん! お母ちゃん! うわわあああ!」
「うるせえ! このクソガギが!」
泣き叫ぶこどもを初老の男性がこぶしでぶん殴った
「フギャッ!」
「キャー!」
こどもは母親に抱かれたまま、ぐにゃり、と首をあおると目をむいて昏倒し、口もとから鮮やかな血に濡れた純白の乳歯が、ぽたり、と畳に落ちた