新型コロナウイルスの感染が拡大している福岡県で、自宅療養する感染者が増えている。

 中には外出が制限される宿泊療養を嫌がり、ホテルに移ることを拒否する感染者もいる。自宅療養は家族らにうつすリスクがあり、医療関係者は「市中感染の拡大につながりかねない」と危惧している。(坂田元司、池園昌隆)

■知事が呼びかけ

 福岡県内の感染者は7月中旬から急増し、同31日に過去最多の170人となった。自宅療養者も7月9日はゼロだったが、今月6日には662人に達した。小川洋知事は同日の定例記者会見で「陽性が判明したら保健所の指示に従い、速やかにホテルに入ってほしい」と強調した。

 知事がこう呼びかけたのは、指示に従わない人が増えているためだ。県内の感染者の6割を占める福岡市の担当者によると、ホテルでの療養を求める保健師に対し、若い世代を中心に「無症状なのに、どうして行かないといけないのか」「家でおとなしく過ごすから」などと反論されることがあるという。感染者全体に占める若い世代の割合は増えている。3月下旬から5月上旬の「第1波」のときは、20〜30歳代が約3割だったのに対し、7月以降は6割になった。

■稼働率26%

 感染者は感染症法に基づき、原則全員が入院することになっている。ただ、病床が足りなくなる恐れがあるため、入院の必要がない軽症者らは、入院に準じた措置として宿泊療養が認められている。

 宿泊療養中は自由に外出できず、SNS上には「酒もたばこも駄目で嫌だ」「めちゃめちゃ暇」などの投稿が見られる。同市の担当者は「『SNSでネガティブな投稿を見た』『ホテル療養した友達が暇と言っていた』などと話し、宿泊療養を拒否する人もいる」と明かす。

 福岡県は、福岡市内にホテル2か所(計686室)を借り上げて稼働させているが、稼働率は26%にとどまっている。ホテルでの療養を拒否する感染者がいるほか、症状の聞き取りなどに時間がとられている面もあるという。

■治療遅れる恐れ

 一方、感染者が急増している自治体では、自宅療養を認めるケースも出てきた。沖縄県は、高齢者と同居していないことや、家族の見守りが可能であることなどを条件に、今月2日から自宅療養を容認。愛知県も7月、自宅療養を認めるとした。

 ただ、自宅療養は家族にうつすリスクのほか、容体が急変した際に治療が遅れる恐れもある。埼玉県では4月、自宅療養していた70歳代と50歳代の男性が相次いで死亡した。福岡県内でも、自宅療養中の若い感染者の症状が悪化し、人工呼吸器が必要になったケースがあるという。

 福岡県で、病床確保の責任者を務める上野道雄・福岡東医療センター名誉院長は「感染を広げないための措置を自宅で徹底するのは、非常に難しいのが現実だ。自分のためにも周囲のためにも、自宅療養は避ける必要がある」と話している。

宿泊療養 自室出られず
 宿泊療養中の生活はどのようなものなのか。

 福岡県の場合、感染者は毎朝午前7時に起床。毎朝、自分で体温を測り、結果をホテルに常駐している保健師に電話で報告する。食事は1日3回、弁当が提供される。弁当を受け取るとき以外、自室から出ることはできない。無症状者であれば、検体採取日から10日で帰宅できるという。

 一方、自宅療養者に対しては、保健師が原則として朝夕の2回、検温結果や体調について電話で聞き取る。食事の提供などは行っていないため、買い物目的で外出するケースもあるとみられる。

読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200808-OYT1T50122/