8月28日、安倍晋三首相が辞意の表明会見を行った。

 英メディアは一斉にこれを報じたが、以前には「回転ドア」と呼ばれるほどくるくると交代していた日本の政権が安倍氏のもとで約8年にもわたって続いたことを評価し、首相は日本に「新たな自信を待たせた」政治家であったと紹介しておおむね好意的な報道となった。

 ほんの数年前まで、戦争を放棄した憲法の改正を目指した安倍首相はアジア太平洋地域の安全保障を脅かす危険な存在であり、靖国神社への参拝や日本政府の従軍慰安婦問題への関与についての「強制性はなかった」という発言(2007年)をどのメディアも糾弾したものだったのだ。今や、こうした厳しい視線はすっかり様変わりした。

 その変貌ぶりを見てみたい。

安倍政権が7年半で達成したこと

 英経済紙フィナンシャル・タイムズは辞意表明の会見2日前に、「首相の勝利はジャパン・インク(注:日本のこと)に長期政権であることを信じ込ませたこと」という記事を出している(8月26日付)。辞任が噂される中、一足お先に政権のこれまで振り返った記事である。

 この中で、安倍政権が7年半の間に達成したこととして、「日本で史上最長の政権を維持した首相となったこと、米国および中国と安定した関係を維持していること、東証上場の企業の株価が2倍になったこと」を挙げている。

 そして、首相の政治家としての抜きんでたスキルとは「企業経営者及び官僚に対して、自分が1ヵ月後も、1年後も、5年後も政権についているだろうと確信させることだった」という。企業の経営陣は、自分の任期よりも長期に政権が続くと思うことで安倍氏をより真剣に受け止めることになり、官僚は担当する政策を終了させようとするからだ。

 辞意表明の会見後に出たFT紙の記事(8月28日付)では、首相が病気で辞任することになり、「不安定な時代をさらに悪化させる」ことを懸念。日本が「COVID-19、深刻な景気後退、中国や韓国との論争の処理に苦しむ中」、与党自民党の中で次の党首探しが始まる、と予測する。

 任期中に達成できなかったこととして、「日本の平和憲法の改正」、「ロシアとの領土問題」、「2%のインフレ目標を維持できるほどの景気の活性化」などを挙げながらも、安倍首相が「日本に新たな自信を付けさせた」と評価する。

 日本大学の岩井奉信教授による「安倍首相は日本の政治に安定性をもたらし、日本の国際的プレゼンスを増大させた」というコメントがあり、一方、政治評論家・伊藤惇夫氏は安倍氏が「レガシーを全く残さなかった」と否定的な見方をしている。

 前向きなコメントと否定的なコメントを交互に掲載することで、バランスが取れた印象を与える記事である。

 保守系高級紙「デイリー・テレグラフ」は国際面の1面約半分のスペースを使って安倍首相の辞任表明の記事を出した(8月28日付)。

 保守系メディアであることもあって、安倍政権を好意的に扱うことにしたのか、2799日続いた長期政権であることを紹介した後、安倍首相は「増大する中国の影響に対抗するために日本の軍隊を強くし、今は延期されることになった東京五輪の招へいに大きな役割を果たした」、しかし「最もよく知られているのはその経済政策」として、アベノミクスを挙げた。

 記事の最後は元駐日英大使デービッド・ウォレン氏が、長期政権であったがために日本の国際的な信頼性が高まった、安倍首相は日本という船を安定運航したと語っており、「べた褒め」と言ってもよい論調である。

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/c4b018247d79a7904921652b9bf876a1aa849171
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