やっぱり年内の完成は無理? コロナワクチンの実用化まで最低でもあと1年半はかかる理由【週刊エコノミストOnline】


世界がワクチン開発の早期成功に期待を寄せており、米国のトランプ大統領に至っては11月の米大統領選挙を意識してか、
「年末までにワクチンが手に入ることを確信している」などとする旨の発言を繰り返している。

果たしてそれは現実的なのだろうか。また、ワクチンが承認されれば直ちに万事解決となるのか。今後想定される課題について考える。

ワクチンの承認には有効性と安全性の確認が必要となる。それを確認するための臨床試験が今まさに進行中であるため、
承認・実用化の時期は「予測できない」というのが最も適切だ。

第2相までの試験では実際のウイルスに対する防御効果は測られておらず、加えて第3相で多くの被検者に接種することで、
これまで見られなかった副反応が見られることもある。有効性や副作用を確認するためには少なくとも第3相の試験結果を待つしかない。

ただし、現在承認されているワクチン開発にかかった期間が、おおむね10年以上、最短でもおたふく風邪ワクチンの4年ということを踏まえると、
トランプ大統領が言う「年末まで」というのは楽観的と言わざるを得ない。

米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は3月の時点で「1年から1年半」と発言したが、これも十分野心的な発言だろう。

ワクチンが承認され、大量生産にも成功し、世界中にワクチンを届けることができれば直ちに経済活動が正常化されるのだろうか。
ポイントは二つだ。1点目は有効率だ。ワクチンは接種すれば100%の効果を保証されるものではない。

例えば、インフルエンザワクチンは、年にもよるが、30〜60%程度の有効率とされる。
ワクチンができたからといって、有効率が必ずしも高いとは限らないのだ。

6月30日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、ワクチンを承認する方針を公表。
接種群がプラセボ(偽薬)に比べて50%以上の割合で発病や重症化を防ぐことを承認の条件として求めた。

仮に有効率50%のワクチンが承認された場合、それは直ちに経済活動の正常化をもたらすのだろうか。

新型コロナの発病率を10%と仮定する。東京都の人口(約1400万人)が仮に全員に有効率50%のワクチンを接種すれば、
140万人の患者が発生するはずのものが、70万人で済むということになる。

公衆衛生の観点に立てば、70万人の患者数の減少の効果は高いといえる。
一方、個人レベルでこれを考えると、ワクチン接種によって発病率が10%から5%に減少するものの、
高齢者など「ハイリスク」とされる人たちが直ちにこれまでどおりの経済活動に戻るかというと、疑問が残るところだ。

ワクチンを含む医薬品開発においては、前臨床試験で有効性や安全性が検証できた被験薬の約90%が、
その後の臨床試験で「有効性が認められない」 「副作用が生じる」などの理由で開発が中止となる。

加えて、今回の開発中のコロナワクチンはこれまで人での承認実績に乏しい種類のワクチンが数多いことも見通しを難しくしている。
ただし、新型コロナは、人が感染して1年もたっておらず、現段階では未解明のことも多い。

後研究が進み、ウイルスの特徴が明らかになることで有効率の高いワクチンが早期に実用化される可能性もある。
可能性は認めつつも、予断を許さない状況の中での楽観論は禁物だろう。

ワクチンの開発やその後の経済活動正常化への道のりは決して容易なものではないことを認識し、長期戦になるケースも想定した上で備えることが重要だ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/24fc0450b42769020ee35cb270bd274102dd9efb?page=1