自民党総裁選(8日告示、14日投開票)は、党内5派閥が推す菅義偉官房長官が出馬表明し、早くも圧勝の勢いとなった。
派閥の力学で後継首相が事実上決まることを疑問視する声は多いが、永田町の関心はもはや、新政権の布陣や衆院解散の時期に移っている。

派閥主導に先祖返りした「菅政権」で本当にいいのか。安倍政権の中枢にいた菅氏に「死角」はないのだろうか。

菅氏と岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長の3氏が争う構図が固まった総裁選。
安倍晋三首相の出身母体で最大派閥の細田派(98人)と麻生派、竹下派(共に54人)、二階派(47人)、
石原派(11人)の5派が菅氏支持を決め、勝敗は既に決した観がある。

菅氏を支援する無派閥議員も加わり、単純計算で国会議員票394の7割以上を抑えた格好だ。

今回の総裁選は党員・党友投票を省くため、地方票は各都道府県連に3票ずつの計141票だ。
地方に人気の石破氏が過半の票を集めたとしても、合計で菅氏を上回るには国会議員票を切り崩すしかないが、まず不可能だろう。

なぜここまで優勢になったのか。官房長官としての実績や改元時に「令和おじさん」として知名度を高めたこともあるが、
「今のポジジョンを保ちたい安倍政権の主流派が菅氏を押し立て、一気に優位に持っていった」(党関係者)ことが大きい。

8月中旬以降、首相が持病である潰瘍性大腸炎の悪化で、辞任の可能性が現実味を増すと
「二階俊博幹事長や麻生太郎副総理兼財務相らが水面下で動き、首相の意もくみながら菅氏擁立の流れをつくった」(同)という。

首相の意中はもともと岸田氏だった。麻生氏も同調していたが、菅、二階両氏は、
発信力と政局観に乏しいとして岸田氏の首相後継には否定的だった。首相と麻生氏としては、ここで岸田氏にこだわった場合、
菅、二階両氏を石破氏擁立に走らせかねない。嫌悪する石破氏に政権を渡すくらいなら、菅氏を後継にした方が権力構造を維持できる―。

首相、麻生、菅、二階の「四人組」の思惑が一致。首相の辞意表明のわずか2日後、8月30日には菅氏が岸田、石破両氏を圧倒する方向になっていた。

石破氏は、菅氏の出馬はないと踏み、二階氏に接近することで活路を見いだそうとしていたが、
逆に首相を菅氏側に引き寄せるための「当て馬」にされた形となった。岸田氏は細田、麻生両派の支持獲得を基本戦略にしたものの、はしごを外された。

菅政権誕生を織り込み、永田町では早くも人事を巡る派閥間の主導権争いが始まっている。
2日に細田、竹下、麻生3派会長がそろって記者会見をしたのは、党三役を分け合おうとする動きとも受け止められている。細田派が幹事長狙いなのは明白だ。

一方、二階氏と麻生氏が「政権の継続性」を理由に幹事長と財務相に留任し、正副官房長官に河野太郎防衛相と小泉進次郎環境相を抜てきするともささやかれる。
河野、小泉両氏はともに菅氏と同じ党神奈川県連所属で、菅氏に近いと見られている。人気の高い2人を「政権の二枚看板」に据え、政権の発信力を強化する狙いだ。

菅政権は当面、安倍首相の残り任期である来年9月までの「暫定政権」と受け止められている。2人の要職起用は「ポスト菅」までも見据える。
また、二階、麻生両氏が今回、潔く退き、どちらかが衆院議長に就くという「構想」もあるようだ。

早期の衆院解散・総選挙も取り沙汰されている。共同通信社が8月末に行った世論調査では、内閣支持率が56・9%と、1週間前の調査に比べて20ポイント以上も上昇。
安倍政権7年8カ月への肯定的な評価を印象づけた。自民党の支持率も45・8%で、同じく13ポイント近くアップした。

この結果を見れば「新政権誕生のご祝儀相場で支持率がさらに上がれば、解散は近い」(立憲民主党ベテラン議員)との見方が永田町に広まるのは当然だ。
東京都内で公明党議員が街頭演説を始めたとの情報も、臆測に拍車を掛ける。

菅氏は3日のフジテレビ番組で、解散はコロナ感染の収束次第だと語り、観測気球を上げてみせた。

ちまたで言われる「10月13日公示、25日投開票」に向け、9月27日の公明党大会後の解散はありうるとの見方が、じわりと強まった。
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