適用年齢「棚上げ」に評価も

 少年法に関する法制審議会の部会が9日承認した要綱案は、最大の焦点だった適用年齢の引き下げ判断を見送り、立法府に“丸投げ”した。非行少年の立ち直りに関わる現場や識者からは一定評価する声がある一方、実質的な厳罰化となる内容に「再非行が増える可能性がある」との懸念も根強い。

 「落ち着くところに落ち着いた」と、ベテラン家裁裁判官は明かす。法制審は非行少年が減り少年法が機能しているとの前提で、いったん家裁に送致して少年の背景事情などを調べる「全件送致」は維持。その上で、18、19歳は18歳未満と異なる扱いが必要として議論したがまとまらず、位置付けや呼称を「立法プロセスに委ねる」と先送りした。

 九州大大学院法学研究院の武内謙治教授(少年法)は「18、19歳は少年なのか成人なのか、根幹が明確でないことが一番の問題」と指摘。民法改正で成人年齢が18歳になった後も、喫煙や飲酒、競輪などの公営ギャンブルは20歳に据え置いたまま。武内教授は「ドイツなど諸外国では少年法と民法の適用年齢が一致しない例は多い。法律の目的が違い、年齢がそろわなくても問題ない」と強調した。

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 要綱案は18、19歳について、家裁から検察官に送致(逆送)して大人と同じ刑事手続きにする犯罪の範囲を広げた。現在殺人など原則逆送となるのは全体の1%程度だが、強盗や強制性交、放火などにまで広げる。「例えば強盗でも窃盗に近い事例は珍しくなく、犯行態様に幅がある。罪名だけで一律逆送を拡大しても、非行少年にも社会にもプラスではない」と元家裁調査官の須藤明駒沢女子大教授(犯罪心理学)。

 逆送後、検察は起訴猶予や不起訴処分にする例もある。少年はおとがめも手当てもなく社会に戻り「単なる野放し」(元少年院長)。須藤教授も「少年院などで教育的な働き掛けをして自己の責任を考えさせる方が再非行防止につながる」と訴える。

 「必ずしも厳罰化ではなく処分の多様化」と受け止めるのは元少年院長の服部達也京都産業大教授(矯正社会学)。家裁が生い立ちなどを詳しく調べた記録に基づき、逆送しない選択肢も残る。「逆送は少し増えるかもしれないが、裁判官が少年に応じた適切な判断をすれば問題ない」

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 将来の社会復帰を妨げないように少年の実名などの報道を禁じる規定も見直す。要綱案は、18、19歳については起訴時点で実名報道などを解禁した。

 「少年に将来にわたってレッテルを貼ることにつながり、立ち直りを困難にさせる」。他の元少年院長とともに、適用年齢引き下げ反対の声明を出した元小田原少年院長、八田次郎さんは危ぶむ。起訴されて大人と同じ刑事裁判所の判断で再び家裁に戻すケースもあり、既に名前がさらされていると「取り返しがつかない」。冤罪(えんざい)の可能性もあり、起訴が何の区切りなのか「根拠が不明」(別の元少年院長)。

 3年半にわたる法制審の議論は「加害少年だけ守られている」と、苦しむ犯罪被害者側の心情をどうくみ取るかも課題になった。服部教授は「少年法の自己正当化だけでは難しい時代。被害者感情を踏まえ、少年法も進化しないといけない」と自らに言い聞かせる。

(一瀬圭司、鶴善行、久保田かおり)

西日本新聞 2020/9/10 6:00
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