安全保障関連法の成立から5年。政府はこの間、一貫して「専守防衛」の方針に変わりはないと主張してきた。その一方、護衛艦の事実上の空母化や長距離ミサイルの導入決定など、他国を攻撃できる兵器の配備に向けた準備を着々と進め、敵基地攻撃能力の保有検討にも着手している。他国を武力で守る集団的自衛権の行使を認めた安保法制下で、憲法9条に基づく「必要最小限の防衛力」はどこまで認められるのか。肝心の議論は置き去りのままだ。(新開浩)
◆棚上げ
 「集団的自衛権の行使に必要な兵器は、どこまで何を持てるのか。議論が全く棚上げされている」
 元内閣法制局長官で弁護士の阪田雅裕氏=写真=は、安保法成立後の兵器保有を巡る議論の欠如に警鐘を鳴らす。
 安保法の成立以前、自衛隊が「どこまで何を持てるのか」は今より分かりやすかった。日本が武力を行使できるのは、自国への攻撃を排除する個別的自衛権の場合に限られたからだ。他国の領土を攻撃できる長距離爆撃機や、攻撃型空母の保有は憲法上許されないと明確に定められていた。
 防衛省が導入を決めた長距離巡航ミサイル「JSM」の模型=同省提供
 防衛省が導入を決めた長距離巡航ミサイル「JSM」の模型=同省提供

 だが安保法成立後の2018年度予算に、日本の領空から北朝鮮国内に届く射程を持つ長距離巡航ミサイル導入の関連費が計上された。18年暮れには国の防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」を新たに閣議決定。海上自衛隊の「いずも」型護衛艦を改修し、最新鋭ステルス戦闘機F35を搭載して事実上の空母として運用する方針を明記した。

 政府は、いずれの兵器も「専守防衛の範囲内で運用する」と強調したが、性能上は他国攻撃が可能な能力を持つことと、憲法9条に基づく「自衛のための最小限の実力」を超えないことの整合性について、厳密な議論は行ってこなかった。
◆なし崩し
 なし崩し的に攻撃的兵器の導入を拡大する流れに連なるのが、敵基地攻撃能力の保有検討だ。安倍晋三前首相は退任前の今月11日に発表した談話で「迎撃能力を向上させるだけで国民の命を守り抜くことができるのか」と必要性を強調。年内に結論を出すよう促し、安倍氏の実弟で、菅内閣で初入閣した岸信夫防衛相がバトンを引き継いだ。
 これまで、日本侵略を狙う敵国が現れた場合は、日本は国土の防衛に徹し、敵国の本土をたたく役割は日米安保条約に基づいて駐留する在日米軍に委ねる分担になっていた。敵基地攻撃能力の保有となれば、日米安保との矛盾や整合性も問われることになる。
 阪田氏は「これまで日本が敵基地攻撃能力を持たなかったのは、在日米軍がそれを担うという整理だったからだ。自前で能力を持つなら、米軍駐留の削減も並行して議論しなければいけない」と指摘する。

東京新聞 2020年09月18日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/56252