ニューヨーク・タイムズ(9月24日付)などによると、米統合特殊作戦軍はこのほど、国際テロ組織アルカイダのシリア分派「フラス・アルディン」の幹部をドローン搭載の通称“忍者ミサイル”で暗殺した。このミサイルは爆弾の代わりに長い回転刃で標的を切り刻むという特殊兵器。米軍はテロリストとの「影の戦争」に新兵器を本格投入し始めた。

6枚の回転刃を放出

 同紙の報道について、国防総省スポークスマンは攻撃が9月14日にシリア北西部イドリブ近くで実施されたことを確認した。米国の対テロ当局者や現地の人権監視団体などによると、殺害されたのは「フラス・アルディン」幹部のサイヤフ・チュンシというチュニジア出身のテロリストで、西側への攻撃計画の首謀者とされる。

 米軍のドローン「リーパー(死神)」が「R9X」と命名されたヘルファイア・ミサイルを発射し、殺害した。通常のヘルファイア・ミサイルには弾頭に約9キロの爆薬が装着されているが、「R9X」は弾頭を爆発させる代わりに、6枚の回転刃が付いた金属物体を放出、これによって標的はズタズタに切り刻まれる仕組みだ。

 この兵器はほぼ10年前に開発され、今回は最近の3カ月間で2度目の使用。1度目は6月に同組織の事実上の指導者だったハリド・アルアルリをシリアで殺害した。この他、これまでに統合特殊作戦軍と中央情報局(CIA)がイエメンやシリアで過激派の暗殺に使ったが、実戦に投入された回数は6度ほどにとどまっている。

 残虐とも思われるこの兵器は米軍の過激派攻撃で民間人の死傷者が増えたため、オバマ前大統領が民間人の巻き添えを最小限に食い止める兵器の開発を指示して生まれた。一般的に多数の過激派を一挙に掃討する場合は通常のヘルファイア・ミサイルが使われ、少数を標的にするケースに通称“忍者ミサイル”の「R9X」が使用されるという。

 統合特殊作戦軍は今後も、シリア、アフガニスタン、イエメン、イラクなどの過激派殺害に「R9X」を使用すると見られているが、最近アフリカ軍がケニアでのドローン攻撃を容認するよう、国防長官とトランプ大統領に要求していると伝えられており、同ミサイルの使用頻度が増える可能性がある。ケニアには隣国のアルカイダ系過激派「アルシャバーブ」が越境テロを繰り返し、1月には米国人3人が殺害された。

西側テロを画策する最凶組織

 殺害された幹部が属している「フラス・アルディン」は米国が最凶のテロ組織として狙い続けてきたグループだ。同組織は元々、アフガニスタンに潜伏していると見られるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが西側権益を攻撃させるためシリアに設置させたもので、当初は「ホラサン・グループ」と呼ばれた。

 シリアのアルカイダ分派だった旧ヌスラ戦線(現シリア解放委員会)がアルカイダと決別宣言した後、過激な思想を持つ面々が集まって2018年、「ホラサン・グループ」の後継組織として「フラス・アルディン」を立ち上げた。その後、米国の空爆によって大きな打撃を受けたものの、現在はイドリブ県に約2000人の戦闘員が残っているといわれる。シリア北西部はロシアが制空権を握っているため、米国の空爆に抑制が掛かったおかげで生き延びたようだ。

 同組織の存在が知られるところとなったのは昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者だったバグダディが米軍の急襲によりイドリブ県で殺害された時だ。バグダディに隠れ家を提供していたのが「フラス・アルディン」の司令官だったからだ。ISとは犬猿の仲だっただけに、バグダディから用心棒代を受け取って匿っていたことに、世界中のテロ専門家らが仰天した。

 イドリブ県はシリア内戦で残った反体制派の最後の拠点だ。現在は全土制圧を目指すアサド・シリア政権軍がロシア軍機の支援で、同県への攻勢の機会をうかがっているが、トルコ軍がシリアに侵攻し、にらみを利かせているためアサド政権、ロシア、トルコが三すくみのような膠着状態が続いている。

 県内に立てこもる最大勢力はアルカイダとの関係を切ったと主張する「シリア解放委員会」で、その勢力は約3万人。またトルコが支援する反体制派「国家解放戦線」も同程度の勢力規模だといわれる。「シリア解放委員会」は自分たちの占領地域をISと同様に「国家」と呼び、同県の支配体制の強化を図っている。最近では、外国人の過激派追放に乗り出し、「フラス・アルディン」との間で交戦に発展、緊張が高まっている。(続きはソース)

9/28(月) 12:22配信
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