11月1日に是非を問う住民投票が行われる「大阪都構想」の説明会は4日、全8回の日程を終えた。前回の2015年の住民投票の際は計39回の説明会を開いたが、新型コロナウイルス感染防止のため大幅に縮小した。質疑応答の時間が限られ、参加者からは不満の声も。市は引き続きオンライン説明会を開き、電話相談の窓口も広げて問い合わせに応じる。

「府の人口のうち特別区民は半分以下。特別区民の声はきちんと届くのか」。4日午後2時から開かれた最後の説明会。松井一郎市長や吉村洋文知事らによる説明が終わると、質問しようと市民らが次々と手を挙げた。

時間切れで質問できなかった城東区の無職女性(72)は「介護保険について聞きたかった。市長の説明と同じくらい質問の時間があって初めて丁寧な説明と言えるのでは」と不満を漏らした。

15年の説明会は39回で約2万4千人(視聴会場除く)が参加したが、今回は新型コロナの影響で9月26日以降の土日に1日2回ずつ市内8カ所で開いて約3千人だった。1回当たりの参加者数も制限され、15年に161人だった質問者は70人に。市側の説明などが長引き、市長や知事に直接聞く質疑応答の時間が削られることもあった。

参加者の説明内容の評価は割れた。前回は反対派も含めた各政党の主張をまとめたチラシを配ったが、今回は見送った。

松井氏は説明会でデメリットについて問われ、特別区の設置コスト(初期費用で約240億円)を挙げたが「先行投資だ」と主張。「各党のチラシは維新は都構想推進、自民や共産は反対一辺倒となり、混乱する。役所で作ったパンフレットをもとに冷静に判断してほしい」と呼びかける。

参加者からは「初期費用がかかるというマイナス面も聞けた」との声が上がる一方、「メリットばかりが紹介された。新型コロナの影響を踏まえて特別区の財政シミュレーションを再試算するなど、さらなる判断材料がほしい」との意見も出た。

自民党市議団は9月29日、市の都構想の周知について「公平性・公正性・中立性に欠く」として市長に抗議文を提出。北野妙子市議団幹事長は「住民説明会が非常に少なく、パンフレットを読んで判断する人が多い中、正確な情報を知ることができない」と批判する。

対面説明会が制約を受ける中、松井氏らはオンラインを活用する。住民説明会で配布する都構想のパンフレットにQRコードを記載。都構想の経済効果などを紹介するホームページに誘導する。

ビデオ会議システム「Zoom」などを用いたオンライン説明会も9月30日〜10月10日に計3回実施。計910人が事前に申し込んだ。初回は17人が松井氏らに直接疑問を投げかけた。

インターネットの操作に慣れない高齢者らにも配慮。9月7日に都構想に関する電話相談窓口の回線をこれまでの6回線から15回線に増やした。

市によると、9月の1カ月間で高齢者を中心に1000件以上の電話があったという。特に9月に都構想のパンフレットを配布してからは、「(地下鉄やバスの)敬老パスはなくなるのか」「公共料金は値上げするのか」といったサービスに関する質問が増えている。

松井氏は4日の説明会終了後、「できる限りの丁寧さで説明した」と述べた。吉村氏も「時間も延長して質問にできるだけ回答した。反対派からすると不十分かもしれないが、いろいろな場で説明を尽くしたい」と話した。

日本経済新聞 2020年10月4日 19:00
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