身に覚えがない「利用料金」の請求はなぜ―。東京都港区の会社役員の女性(58)から本紙に投稿が寄せられた。電子マネー決済サービス「ドコモ口座」の不正送金事件が最近発覚したばかりだが、女性はクレジットカードを巡り「ドコモ」名目で被害に遭ったという。サイバー空間のセキュリティーに注目が集まる中、何が起きたのか取材した。(井上真典)
◆「ドコモ利用」名目で10万円超
 「いつも使っていないカードだったのに、なぜでしょうか」。自宅で取材に応じた女性は、クレジットカードの明細を手にしきりに首をひねった。
 女性は8月、カードの6月分の利用明細で「ドコモご利用料金」「ドコモ決済サービス等」として計4万2114円の請求に気付いた。慌てて過去の利用明細を確認すると、4月分から同様の請求が始まっており、累計で10万円を超えていた。
 女性はNTTドコモの携帯電話料金1680円を別のカードで支払っており、同居の夫(60)と長女(22)はKDDI(au)を使っている。長女に念のため確認すると「ママが使ったのを覚えてないだけじゃない?」と逆に疑われた。結局、家族全員に利用の覚えはなかった。
◆カード会社と携帯会社たらい回し
 請求のあったカード会社に問い合わせると「ドコモからの請求があったことしか分からない」と回答。ドコモに電話しても「1680円の契約情報しか出てこない」と答えるのみで、ドコモショップへ行くよう勧められた。
被害に遭った女性は「迷宮入りは悔しい」と語った
被害に遭った女性は「迷宮入りは悔しい」と語った

 ドコモショップでも同じ説明が繰り返されたため、再びカード会社に電話した。誰かに不正利用されたとして刑事告訴を検討していると伝えると、一転して「返金手続きのため審査をします」と回答。「今回限りですが大丈夫ですか」とも言われ、自分に非があるような言い方に感じて腹が立ったという。
◆「引き落とし済みは追跡できない」
 カード会社によると、カード明細に「ドコモご利用料金」と記載できる会社はドコモ以外にあり得ないという。ならば、誰が引き落とさせたのか、たどれないものなのか。
 女性はこの点をドコモに問いただしたが、「既に引き落とされている料金は追跡できない」の一点張り。今後、全額が返金される可能性は高いが、結局、原因は分からずじまい。たらい回しにされた女性は「誰が使ったのかは、迷宮入り。悔しい」と気持ち悪さを覚えたままだ。
◆正規サイトでも…手口巧妙で消費者気付かず
 警察庁の担当者は、女性のケースはクレジットカード情報がどこかで盗まれ、悪用された可能性があると推測する。日本クレジット協会によると、カード番号などの情報を盗まれ、知らない間に不正に使われる被害は2014年に67億円だったが、19年には222億円と3倍超に急増している。
 カード情報が盗まれる手口は、偽サイトに個人情報を入力させる「フィッシング詐欺」のほかに、正規の商品販売サイト上で、偽の決済画面に導かれるよう犯罪グループが細工するケースがある。消費者は知らずに個人情報を入力した後、正規サイトに戻り購入手続きを行い、注文した商品が届く仕組み。同庁の担当者は、サイトの脆弱性を突かれた犯罪であることを指摘した上で「情報流出に消費者はまず気付かない」と話す。
◆明細は毎月確認、カードは整理を
 インターネットセキュリティー会社「トレンドマイクロ」(東京)の広報担当者は、流出したカード情報がネットの「闇市場」で売買されている例もあると指摘。被害拡大を防ぐため、「利用明細は月ごとに必ず確認する。管理が行き届かないカードは整理した方がいい」と注意を呼び掛ける。

東京新聞 2020年10月5日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/59666