働く人が自ら出資し、それぞれの意見を反映しながら働く「協同労働」を可能にする「労働者協同組合法案」が、26日召集の臨時国会で全会派賛成で可決、成立する見通しだ。新型コロナウイルスの感染が広がる中、新たな働き方としても期待される。法制化に尽力した2つの団体トップに法案の意義を聞くとともに、今後の展望を探った。(石川智規、坂田奈央)
◆「対立」「競争」ではなく、仲間と考え合って仕事する
 新型コロナウイルスで人間の生き方や働き方を問い直す動きが強まる中、労働者協同組合法案が登場することの意義は大きいと思います。その仕事を手にする人や社会にとって、よい仕事とは何かー。私たちワーカーズコープ(日本労働者協同組合)連合会は、こう問い続けてきました。
 私がこの組合に入った1986年は、フリーターや非正規労働が広がり始めた時期。高校中退者や規定の道を外れたと思い込んでいる若者たちと、商品仕分けの仕事をしていました。
 彼らは心の片隅で「オレは悪くない」と感じながらも、仕事をちゃんとやろうとしない。でこぼこや個性があって最初はうまくいかなかったけど、一緒に仕事をし、メシを食いながら、だんだん折り合っていった。その関係づくりの中でやりがいが芽生え、自分の存在価値が感じられました。(中略)
 今回の法案が成立すれば、仲間が出資してお互いを生かし合いながら働く組織に、法人格が与えられることになります。取り組む事業は農林業などの一次産業や環境、福祉など多様な分野で、持続可能な地域づくりにつなげることができます。労働者協同組合の考え方や認知度を高め、推進する枠組みをつくっていきたいと思います。
 特に、若い人たちがこの仕組みを使うことを楽しみにしています。今までは学生がベンチャーやNPOを設立することもあったけれど、これからは労働者協同組合という選択肢ができる。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に絡み気候問題を食い止める際、デモやストライキなどにとどまらず、この法律を使って、未知の事業を生み出す若者もいるかもしれません。私たちの想像を超えた人々、事業に使われるのが、すごく楽しみです。
 ふるむら・のぶひろ 1986年、中京大卒業後、日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会センター事業団に加入、2017年から理事長。京都府出身、56歳。

◆誰も雇わず、誰にも雇われない働き方で地域に貢献
<藤井恵里・ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン代表>
 この法律の最初にある法律の目的を記した文は「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して持続可能な地域社会の実現に資する」と書かれています。鳥肌が立ちました。私たちの目指す考えそのものだと。
 私たちワーカーズ・コレクティブは1人1人が平等な権利と責任を持ち、誰も雇わず、誰にも雇われない働き方をしながら地域社会への貢献を目指す活動をしています。介護事業や家事援助、子育て支援などに取り組む仲間も多いですが、組合員は働きにくさがあっても配慮し合い、違いを認め合って働く。理事長も1つの役割としてみんなで代わり合う。協同労働の働き方です。
 今はNPO法人として活動している仲間が多いですが、新型コロナウイルスの影響で事業が厳しいところもあり、一部の地域カフェは開店休業状態に陥りました。家賃や固定費の支払いにも困窮する中、一つの事業にとどまらず多角的に運営する必要があります。しかしNPOでは出資できず、自分たちで新しい事業をつくり出すのは困難です。
 今回の法律で認められる「労働者協同組合」になれば、メンバーが出資し合い、より広い事業を展開できるようになります。今あるさまざまな法人格の中で、私たちに一番合う形態なんじゃないかと考えます。(中略)
 企業に雇われて働くというのが当たり前という意識が強い中、まず協同労働という働き方が広がる機会になればと期待します。
 ふじい・えり 河合塾学園名古屋外国語専門学校卒。1989年生活クラブ生活協同組合に加入。2018年からワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン代表。岐阜県笠松町出身、58歳。

 ワーカーズコープとワーカーズ・コレクティブ 日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会は戦後の失業対策事業が源流で、1986年から現組織になった。ワーカーズ・コレクティブは生活クラブ生協の活動から発展し、1995年に全国組織を設立した。両組織とも、一人一人が平等に支え合い、働きがいや地域社会への貢献などを目指す協同労働を理念に掲げる。

東京新聞 2020年10月17日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/62314