新型コロナウイルスの影響で、外国人技能実習制度の矛盾が改めて浮き彫りになっている。日本の技術を習得してもらう目的で企業などに受け入れられている実習生が「解雇」されるケースが相次ぎ、国は救済措置として人手不足の別の産業に振り向ける形での「転職」を解禁した。実習生が労働力として扱われる実態がコロナ禍でさらに鮮明となっており、専門家は「実習制度はただちに廃止すべきだ」と指摘する。

 昨夏に「とび」の実習生として来日したベトナム人のアインさん(25)=東京=の職場は、建設現場ではなく関東のテーマパークだった。ぬいぐるみの修理や清掃の仕事で、20万円と聞いていた月給は5万〜11万円。感染拡大を受け、2月にテーマパークが休園すると待機を命じられ、5月に解雇された。実習先の変更を監理団体に申し出ても取り合ってもらえなかった。

 日本の技術を習得させ、相手国の発展につなげることが目的の技能実習制度。実習生は指導を受ける立場のため別業種への転職はできず、実習先を変わることも自由にできない。法律には「実習は労働力の需給調整の手段として行われてはならない」とあるが、実際には安価で都合の良い労働力として扱う行為が横行している。

 アインさんを保護したNPO法人「日越ともいき支援会」の吉水慈豊代表理事は「実習生は母国で借金して来日する。働ける期間も限られ、理不尽な仕打ちを受けても声を上げられない。立場の弱さがコロナによる『解雇』で露骨に出た」と話す。

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 厚生労働省によると、新型コロナの影響で実習が中止された実習生は9月11日時点で3515人に上る。一方で、予定通りに来日できない実習生が相次いだことで、受け入れ側にも農産物の減産を余儀なくされるなどの悪影響が出ており、監理団体が破産に追い込まるケースも出ている。

 このため出入国在留管理庁は4月、解雇された実習生らを対象に人手不足の産業での就労を可能とする特別措置を実施。9月には、航空便の運休で帰国が困難になった元実習生にも対象を拡大した。感染収束が見えない中、措置は当面継続される見込みだ。

 入管庁によると、この措置で転職した人は9月7日時点で991人。約7割が実習生で、農業や食品加工分野への転職が大半を占める。アインさんもその一人で、今夏、食品加工会社に就職が決まった。「借金が80万円残っている。また仕事ができてうれしい」と屈託なく話す。

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 少子高齢化による労働力不足を見据え、政府は外国人の就労拡大を推進。昨年4月の改正入管難民法施行で「特定技能」の在留資格が新設され、人手不足の農業や介護など14業種で外国人が働けるようになった。

 だが、今年6月末時点の特定技能外国人の受け入れは5950人にとどまり、政府が想定する「2024年までに最大約34万5千人」は遠い。相手国との調整に時間を要していることなどが低調の理由とされる。

 そうした中、今回の「転職解禁」は人手不足の14業種に就くことが前提で、滞在が認められた1年間で働きながら日本語などを学び、試験に合格すれば特定技能に移行できる。外国人の労働問題に詳しい指宿昭一弁護士は「特別措置は、受け入れが進まない特定技能の分野に、国内で余った労働力を回すその場しのぎの対応にすぎない。実習制度は廃止し、特定技能の受け入れが進む体制を早急に整備すべきだ」と指摘する。 (久知邦)

西日本新聞 2020/10/24 6:00
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