【ワシントン=中村亮】3日の米大統領選と同時に実施した連邦議会下院選で、共和党が議席を伸ばす見通しとなった。女性やマイノリティー候補が民主党から議席を相次いで奪取した。圧勝シナリオが崩れた民主党では過激な主張が目立つリベラル派の責任を問う声があがり、不協和音が広がっている。

CNNテレビによると、共和党は7日夜時点で全435議席が改選となった下院の198を確保する見通しとなった。現有議席は197。民主党は211を固めて過半数を維持する見通しだ。残り26が激戦になっており、共和党の獲得議席は200を超える可能性が高い。

選挙前には議席を減らすとみられていた共和党の健闘には2つの要因がある。一つは女性候補の躍進だ。7日時点で民主党から奪回する見通しとなった7議席のうち6議席では、共和党が女性候補を擁立した。西部ニューメキシコ州では共和党として初めて先住民系の女性が当選する見通しとなった。

2018年の中間選挙で、共和党は女性やマイノリティーの候補が乏しいことが一因で、8年ぶりに下院の多数派を民主党に奪われた。今回は少なくても13人の新人女性が当選する見込みだ。米ラトガース大によると、新人女性の当選数は10年の9人を超えて共和党として過去最多になる。

もう一つはトランプ大統領が劣勢となった大都市郊外で議席を死守したことだ。たとえば東部ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外のバックス郡。大統領選でトランプ氏の得票率は47.46%にとどまったが、下院選では共和党候補が57.53%を獲得して勝利を確実にした。

選挙アナリストのデビッド・ワッサーマン氏はリポートで、トランプ氏に反感を持つ有権者の一部は大統領選で同氏を支持しなかったが、下院選では共和党候補に票を投じた可能性が高いと指摘した。

選挙前は議席を5〜15伸ばすとみられた民主党は一転、議席を減らす可能性が出てきた。ペロシ下院議長は6日の記者会見で「いくつかの闘いに負けたが、戦争には勝った」と語った。議席を減らしたとしても過半数を維持したと成果を強調し、執行部への批判をかわす思惑が透ける。

党内の一部からは、議席が減った場合には21年1月招集の新しい議会でペロシ氏の下院議長への再任は望ましくないとの見方が浮上している。

議席減の見通しをめぐり穏健派とリベラル派の応酬も激しくなっている。米メディアによると、穏健派の下院議員は5日の党内の電話会議で、リベラル派が国民皆保険制度や警察予算削減を訴え、共和党が「民主党は社会主義勢力」とのレッテル貼りをする隙を与えたと批判。「誰も社会主義について語るべきではない」と訴えた。

ジム・クライバーン院内幹事も国民皆保険制度などを提唱すれば、来年1月に予定する南部ジョージア州の上院選の決選投票に勝利できないと主張したという。ペロシ氏もリベラル派の台頭を警戒している。

これに対し、リベラル派のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員は6日、ツイッターで「民主党の結果が期待よりも悪くなった責任がリベラル派にあると非難する人たちがいる」と指摘。「そんな人の大半は新型コロナウイルス下でのデジタル戦略がひどかった」と主張。議席減は候補の選挙戦略の失敗が原因だと穏健派に反論した。

穏健派とリベラル派は大統領選での「打倒トランプ」を優先し、政策面での対立を避けてきた。大統領選で当選を確実にしたバイデン前副大統領もオカシオコルテス氏らとの政策協議に応じ、リベラル派に目配りする姿勢を示していた。バイデン氏が勝利宣言を行い、共通の目標を失ったことで、これまで封印してきた党内の穏健派とリベラル派の路線対立が再燃しかねない。

日本経済新聞 2020年11月8日 15:39
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65975720Y0A101C2I00000?s=6