菅義偉首相は米国大統領選でバイデン前副大統領の当選が確実となったのを受け、2021年2月の訪米を打診する。1月20日の就任式後、できるだけ早く首脳会談に臨み、同盟関係の強固さを内外に強調する狙いがある。インド太平洋地域での協力強化や地球温暖化対策でも認識を擦り合わせる。

首相は9日、首相官邸で記者団に、バイデン氏への祝意を改めて示した。バイデン氏との電話協議や首相の訪米の時期について「現時点で何も決まっていないが、今後タイミングをみて調整したい」と述べた。

米大統領との早期の首脳会談は日米関係の強さを映す。安倍晋三前首相は16年11月、正式に就任する前のトランプ大統領と米ニューヨークのトランプタワーで面会した。

大統領就任前に海外要人と会わないという慣例を破った異例の手法で就任後の蜜月関係を築くきっかけをつくった。

日本政府はバイデン氏の就任が確定しても、今回は米側も就任式前の接触に応じないとみる。2月に首脳会談を開くのが現実的に最も早いタイミングととらえ、訪米実現に向けた調整を始める。

米国内の新型コロナウイルスの感染状況次第では先延ばしすることもあり得る。

バイデン氏の会談順も注目される。安倍氏が就任後のトランプ氏と会談したのは17年2月10日で、主要国の首脳で当時のメイ英首相に続く2番目だった。オバマ氏が就任した09年は2月24日に会った当時の麻生太郎首相が、ホワイトハウスで最初に顔合わせをした首脳となった。

01年に第43代大統領に就任したブッシュ氏の場合、カナダが最も早く、当時の森喜朗首相は韓国の金大中(キム・デジュン)大統領より後だった。

首相が最初の会談で確認したいのは東アジアやインド太平洋地域での強い同盟関係の維持だ。

一国主義に傾斜したトランプ氏とは違い、バイデン氏は大統領選で同盟や多国間主義を重視する態度をとってきた。トランプ政権下で関係がこじれた韓国や北大西洋条約機構(NATO)との関係修復に動く見通しだ。

日本としては相対的に日米関係の比重が低下するのは避けたい。米国に対し、東シナ海や南シナ海での中国の軍事活動の抑止に積極的に関与し続けるよう訴える。

加藤勝信官房長官は9日の記者会見で「バイデン新政権とも緊密に連携し、日米同盟全体の抑止力、対処力を一層強化したい」と語った。

北朝鮮情勢でも引き続き米側の協力を要請する。バイデン氏はトランプ氏の対話路線を否定する。日本は米朝対話が後退すれば北朝鮮が再び挑発を強めるのではないかと警戒する。

安全保障面では日本の防衛費負担や在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)などが懸案になる。トランプ氏は同盟国に「応分の負担」を迫ってきた。バイデン政権になれば、圧力も和らぐとの期待がある。

21年度からの日本側の負担を巡る交渉はトランプ氏の任期が21年1月まで続くため、当面の交渉相手はトランプ政権となる。日本側は通常の5年間の合意でなく、1年の暫定合意にとどめる案を検討する。

米中対立の行方も日本の外交方針に影響する。バイデン氏も中国に厳しい姿勢をとり、米中対立という大きな流れは変わらないとの見方は多い。

通商や通信分野で圧力を強めたトランプ氏に比べ、バイデン氏は人権問題を重視する傾向がある。香港情勢やウイグル族への人権弾圧などで日本もより厳しい姿勢をとるよう求められる可能性はある。

環境問題は新政権になれば大きく転換する。バイデン氏は地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の離脱を取りやめる方針を示す。首脳会談でも積極的な対応を求めてくると想定される。

首相は50年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする新たな目標を説明し足並みをそろえる。

日本政府は環境問題を巡り米国が中国とどう向き合うか、分析を急ぐ。

慶大の中山俊宏教授は米政権内で国際協調主義が強まれば、気候変動問題で中国と協調を探る動きが出るかもしれないとみる。「バイデン政権が対中外交で安保と環境を切り離すかが焦点となる」と話す。

日本経済新聞 2020年11月9日 15:00
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65989030Z01C20A1PP8000?s=6