「大阪の海は変わってしまった」。大阪府漁業協同組合連合会の職員は、漁師からこんな嘆きをたびたび耳にする。大阪湾の海がきれいになりすぎて、魚がとれなくなったというのだ。

 大阪湾の水質向上を証明する指標の一つが、透明度だ。白い円板(直径30センチ)を水中に沈め、完全に見えなくなった時の深さ(メートル)で測る。府立環境農林水産総合研究所の水産技術センターの調査では、大阪湾は1972年の年平均が4メートルほどだったが、2018年は5メートル近くまで改善した。秋山諭主任研究員は「関空沖など紀淡海峡に近い南部では、10メートルを超える時もあるんですよ」と解説する。

 高度成長期、大阪湾は工場排水や下水の流入で植物プランクトンが異常増殖し、赤潮が発生。国がプランクトンの栄養分になる窒素やリンといった「栄養塩」を法規制した結果、透き通った青い海がみられつつある。

 一方で、透明度が上昇するにつれ、イカナゴなどの漁獲量は減少している。原因の一つが、魚のエサになるプランクトンの減りすぎだ。温暖化による水温上昇なども影響しているとみられるが、府漁連職員は「海の栄養をあまりに規制しすぎて、大阪湾の恵みが細りつつある」と神経をとがらせる。

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 大阪湾では2011年から毎年秋から冬にかけ、漁船による「海底耕運」が続けられてきた。船尾に結んだロープで鍬(くわ)のような道具を引き、海底をかき回す。たまった栄養分を海中に拡散させるためだ。府連の全24漁協が年1回、ボランティアで取り組み、今月下旬にも予定されている。

 作業後の海には、小魚が集まる様子がみられる。ただ、海は2〜3か月で元通りになるといい、漁獲量への影響もデータ上では明確になっていない。作業を担う漁師らの間で「効果を出すには、公的な支援を受けて規模を拡大しないといけない」との声が上がる。

 同じようにイカナゴ不漁に苦しむ隣の兵庫県は昨年10月、条例を改正し、全国で初めて海中の窒素とリンの濃度を保つ下限目標を定めた。排水基準を緩和し、一定の栄養塩を維持することが期待される。一方、府は「大阪湾は兵庫県沖と比べて栄養塩は多く、特に湾奥部では『海をきれいにしてほしい』との府民の声が強い」と現時点で同様の取り組みには慎重だ。

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