今年もまた、インドのデリー首都圏にあの季節がやって来た。灰色がかったオレンジ色のスモッグが立ち込める中、
ドアや窓を固く閉めて空気清浄機を動かさなければならない。

インドの首都ニューデリーは世界で最も大気汚染が深刻な都市の一つだ。自動車、石炭火力発電所、料理用コンロなどが主な原因だが、
悪化の度合いは時期によって変わり、最も悪化するのは秋だ。インド北西部のパンジャブ州とハリヤナ州で、
コメ農家が次に植える小麦のために9月下旬頃から田畑を焼く煙が流れてくるからだ。

2020年は特に、スモッグが新型コロナウイルス感染症に与える影響も気になるところだ。

「息切れやアレルギーが悪化するこの季節が、本当に憂鬱です」。環境問題に取り組む17歳のアディティア・ドゥベイさんはそう話す。
「今年は肺を傷つける新型コロナウイルスのこともありますから、今まで以上に状況は悪そうです」

彼が不安になるのも無理はない。大気汚染指数が悪化するなか、ニューデリーでは11月11日、
新型コロナウイルスの1日の感染者数が過去最高の8500人に上った。

当局高官が感染者の急増を大気汚染のせいにしたとの報道もある。

実際、大気汚染が新型コロナウイルス感染症の死者数を世界で15%増加させていると推定する研究結果が
学術誌「Cardiovascular Research」に10月27日付けで発表された。

2019年、大気汚染が原因で死亡した人数は世界で667万人に上った。
そのうち167万人以上を占めるインドでは、8割を超える都市が大気汚染に悩まされている。

また同年、世界で最も大気汚染が深刻だった30都市のうち、21がインドの都市だった。

デリー首都圏の当局は2019年、大気汚染のレベルがすべての基準値を上回ったことから公衆衛生上の緊急事態を宣言し、
学校の休校、建設工事の中断、飛行機の欠航などを命じた。しかし、冬のデリーに大気汚染をもたらす原因の40%を占める野焼きを止めさせるのは、そこまで簡単ではない。


デリーでは2020年前半の半年だけでも2万4000人が大気汚染のせいで亡くなっている。
新型コロナウイルスの感染拡大で3カ月間のロックダウン(都市封鎖)が行われ、空気の質が大幅に改善されたにもかかわらずだ。

それに対して、デリーにおける新型コロナウイルス感染症によるこれまでの死者数は7300人だ。
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