東京女子医科大学は7月末、2021年度から医学部の学費を約1200万円値上げし、6年間で約4700万円とすると発表した。麻酔科医の筒井冨美氏は「かつての名門も度重なる医療事故やコロナなどの影響で経営難に陥っています。今後さらに問題が起きれば、以前から付き合いのある早稲田大に吸収合併され、『早大医学部』誕生の可能性もある」という。

創立120年目の名門・東京女子医科大学(以下、女子医大)が、崖っぷちだ。女子医大は、東京都新宿区にある日本唯一の女子学生のみの医科大学である(略)。吉岡の母校の済生学社(現:日本医科大学)が当時、「女性を入れると風紀が乱れる」と女子学生の入学を拒否し始めたことに反発した形でのアクションだった(略)。

昭和期には、右翼運動家・フィクサーとして知られた児玉誉士夫氏、元フジテレビアナウンサーの逸見政孝氏など各界の要人が命を託したブランド病院とされていたが、2004年に脳梗塞で入院した長嶋茂雄氏(元読売巨人監督)あたりを最後に、有名人の入院ニュースを聞くことがめっきり減った。

ブランド失墜の要因とされるのが、数々の“自滅行為”だ。まず、2001年の「12歳女児の心房中隔欠損症手術後の死亡事故」である。女子医大の院内調査委員会は、当初は「助手だった医師のミス」と報告書をまとめて事件の幕引きを図ろうとした。昭和時代ならば一件落着だったかもしれないが、元助手の医師はブログを通じて真実を世間に訴えて裁判に持ち込み、2011年には女子医大から報告書修正と謝罪を得た。一連の裁判から明らかになった女子医大の内情は、ネットで就職情報を探す昨今の医学生に少なくない影響を与えたと思われる。また同事故によって、女子医大病院は特定機能病院の承認を取り消された。その後、特定機能病院は再承認されたものの、2014年には「2歳男児への鎮静剤プロポフォール大量投与による死亡」事故が発生した。2015年に特定機能病院は再び取り消され、2020年には医師6人が書類送検された。

こうした事故や不祥事の影響を受け、経営的にもボロボロな状態だ。2016〜18年度は3年連続赤字で18年度は22億円の赤字。2020年のコロナ禍で経営状況はさらに厳しいものとなった。7月に「ボーナスなし」と発表したことを受け、「看護師400人が退職希望」と報道された。その後、「一時金支給」を表明したものの、女子医大の学生が6年間で払う総学費を突如「21年度から3400万円から4600万円に値上げ」との発表がなされた。迷走する経営陣に内外から疑問や批判の声が絶えない。
(中略)

以上のような要素に加え、コロナが襲いかかって苦境に立つ、名門・東京女子医大。今後、経営陣はどのようなかじ取りを見せるのか注目されるが、その方向性に同じ新宿区にある有名大学がかかわる可能性があるとの指摘が以前から根強く医療業界にある。

その大学とは早稲田大学である。早大は2008年に女子医大とTWIns(=ツインズ、東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設)という連携施設を女子医科大隣接地に設けている(両大学はすでに50年にわたり、人工臓器、医用材料、医療計測の分野での共同研究を進めている。2000年には学術交流協定を締結し、2001年に東京女子医科大学は「先端生命医科学系専攻」を、早稲田大学は「生命理工学専攻」を同時に立ち上げた)。STAP騒動の小保方晴子氏が一時期在籍していたことでも知られている。現段階で、この連携がそのまま女子医大と早大の合併に直結するわけではないだろう。

しかし、女子医大は今回の「学費1200万円値上げ」で短期的な経営状態は改善するかもしれないが、大学関係者によれば来年度の受験者数は減って、受験料収入は減り、合格偏差値も落ちる公算が大きい。その際、学生を獲得するべく推薦入試などをことさら強化して、医師の卵として不適な学力の学生の入学を許可するようなことがあれば、6年後の同大の医師国家試験合格率も下がり、評価やブランド力のダダ下がりは必至だろう。負のスパイラルを何としても食い止めなければならない。

2008年に、順天堂大医学部が学費を900万円も値下げした。これにより、サラリーマン家庭出身者でも進学できるようになったこともあり、医学部の受験者数は急増、合格難易度が高まった。入試偏差値も上昇した同大はブランド的価値が強化されたが、女子医大の場合は、まったくその逆パターンを行くリスクが高い。もし、女子医大で次の事件やスキャンダルが出てさらなる経営悪化をきたせば、身売り同然で、早大に吸収合併され、「早大医学部」が誕生する可能性も否定できない。
(長文の為一部略)

PRESIDENT Online2020/11/18 9:00
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