全ての血液サンプルがフルコナゾールに耐性を持ち、血液から分離した株のうち4つは別の抗菌薬アムホテリシンBも効かなかった。最後の望みであるエキノカンジンは、インドでは入手が難しい。最終的に、6人が死亡した。

チャウドリー氏は、新型コロナと同じく、カンジダ・アウリスの感染拡大を抑えるためにも、検査と接触者追跡が重要であると訴える。カンジダ・アウリスの検査は、皮膚の表面をこするか、血液または尿を採取して行う。陽性と判定された患者では、3種類の抗菌薬の効果が調べられる。

こうしてスーパー耐性菌による死者数をある程度特定することは可能だが、院内感染しやすいという点が問題を複雑にしている。病院では、患者は既にコロナなどほかの病気にかかっているため、死因がその病気によるものなのか、薬剤耐性菌によるものなのかを判断するのは難しい。

コロナ重症患者が院内で感染か、10人中6人が死亡

気候変動とパンデミック

感染症にかかると、人間は防御反応として発熱する傾向がある。菌は熱に弱いためだ。だが、カンジダ・アウリスのような真菌が地球温暖化により高温の環境に適応すれば、その防御反応も効かなくなる恐れがある。つまり、将来的には既存の真菌が拡大するだけでなく、新たな真菌感染症が現れるかもしれない。

「抗生物質が効かない細菌が増えているように、抗菌薬が効かない真菌も人類を脅かすようになるかもしれません」とラクスミナラヤン氏は警告する。多剤耐性結核菌や、北米を中心に症例が急激に増えているクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)などの強力な細菌は、米国で年間280万件というスーパー耐性菌感染症の99%を占め、死者はおよそ3万5000人に上る。

以前から薬剤耐性を育む温床と言われてきたインドは、今や新型コロナ感染症流行の中心地となっている。チャウドリー氏の研究室でも、約半数の職員が最近の検査でコロナ陽性と判定され、2人が死亡した。個人的にも大変な状況に置かれているなか、カンジダ・アウリスの脅威に人々が気付き始めていることを、チャウドリー氏は歓迎している。

「多くの人が、インドの問題なので自分たちには関係ないと考えていました。これまで私はたったひとりで研究し、大変な思いもしましたが、今は世界がその研究に取りかかっています。真菌感染症は、決して無視してはいけない病気です」
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