11月下旬の3連休のさなか、安倍晋三前首相の「桜を見る会」疑惑について、降ってわいたかのように新たな報道が飛び出した。疑惑の核心とされてきた前夜祭での安倍氏側の経費補填について、「東京地検特捜部が捜査中」というのだ。

2019年11月に共産党が国会で問題を追及して表面化して以来、安倍氏は、@事務所が会費を参加者から集金してそのままホテル側に渡したA後援会への収支は一切なく、政治資金収支報告書への記載は必要ないB明細書の発行はなかった、などと答弁し、公職選挙法と政治資金規正法にはともに違反していないと主張し続けてきた。当時官房長官だった菅義偉首相も、安倍氏と同様の答弁で野党側の追及をかわしてきた。

■長きにわたる虚偽答弁か
これに対し、全国の弁護士らは安倍氏と後援会幹部3人について、2020年5月に東京地検に公選法と政治資金規正法違反であるとの告発状を提出。同地検はこれまで動きがなかったが、読売新聞が23日、安倍事務所の担当者らから同地検特捜部が任意の事情聴取を始め、「安倍事務所が5年間で800万円以上の経費補填」などと報じたことで政界が大揺れとなった。

報道が事実なら、安倍氏は在任中、国会で長期間にわたり虚偽答弁を繰り返してきたことになる。政治的・道義的責任は免れず、刑事事件として立件されれば安倍氏の政治生命にも大きな影響を及ぼす。疑惑を否定する答弁や記者会見を続けてきた菅首相の政治責任も厳しく問われかねない。

まさに、年明けの衆院解散も含めた年末以降の政局運営にも影響必至だが、検察しか知りえないさまざまな捜査情報が次々と報道されており、政界では「官邸陰謀説」もささやかれている。安倍氏はここにきて政治の表舞台に復帰し、安倍氏支持グループからは2021年9月の自民総裁選に出馬するという「再々登板説」も出始めた。「これに危機感を持った官邸が密かに動いた」(自民幹部)との見方からだ。
読売新聞によると、2015年から2019年までの間、首相夫妻が主催する「桜を見る会」前日の前夜祭で、参加者が払った1人5000円の会費合計と、ホテル側が実際に請求した宴会経費の差額計800万円超を、安倍事務所側が補填していたという。その際、ホテル側は安倍氏が代表を務める資金管理団体「晋和会」宛てに領収書も発行していたと指摘した。

これが事実なら、安倍氏の国会答弁はすべて虚偽となるのは明白だ。選挙支援を目当てに資金提供したと認定されれば公選法違反になり、事務所が補填したのに政治資金収支報告書に記載していなければ政治資金規正法違反(不記載)となる。その後、NHKなどが「補填総額は916万円」「ホテル側が出した領収書を安倍事務所が廃棄した」など、この問題を大々的に報じている。さらに、「東京地検が近く、安倍氏自身からも事情を聴く」と踏み込んだ報道も飛び出している。

疑惑が再燃する形になった安倍氏は24日、「今回、告発を受けて捜査が行われていると承知している。私は国会で答弁させていただいているが、事務所としては、告発を受けて全面的に(捜査に)協力していくということだ」と述べる一方、詳しい説明については「途中経過の段階なので、お答えは差し控えたい」と述べるにとどめ、記者団の質問も受け付けずに立ち去った。その一方で、菅首相は25日の衆参両院での予算委集中審議で「捜査中の問題で答弁は控える」とガードを固め、安倍氏の参考人招致や証人喚問も「国会が決めること」と否定的見解を繰り返した。ただ、自らの国会答弁が結果的に虚偽だった場合の責任を問われると、「そうなれば答弁した私にも責任がある。それは対応する」と苦渋の表情で答えた。

■官邸の情報リーク説も
今回の疑惑再燃で政界関係者が注目したのは、メディアの報道ぶりだ。疑惑が表面化して以来、追及してきたのは朝日、毎日、東京各紙などいわゆる「安倍政権批判」グループだった。ところが、今回口火を切ったのは、「安倍政権擁護派」とみられていた読売で、すぐさま追随したのも政権寄りの姿勢が目立つとされたNHKだった。

このため、政界では「読売が先行したのは菅政権がリークしたからではないか」との声が広がった。菅政権発足後は、政界でも「安倍前政権以上に官邸が司法をコントロールしている」(立憲民主幹部)との声も多く聞かれた。今回の地検の動きについても、「菅首相と上川陽子法相、さらに加藤勝信官房長官や杉田和博官房副長官(事務)に検察側から事前報告がなかったはずはない」(閣僚経験者)との見方が支配的だ。菅首相ら官邸側は「地検の動きを知りながら後押しもしくは黙認していた」(同)という読みだ。
(長文の為以下はリンク先で)

東洋経済2020/11/28 4:50
https://toyokeizai.net/articles/-/391702