――「ボディーシェアリング」(身体共有)という研究も続けているそうですが、これはどういう内容なのでしょうか。

ボディーシェアリングとは、ひと言で言うと「時間と身体、空間の制約がなくなる」ということです。

1つ目の「時間の制約がなくなる」は、過去を追体験できるようになることを意味しています。起きたことを口頭で伝えたり、文字にして書籍にまとめたり、映像にまとめてYouTubeにアップしたり。これらは今でも行われていることですが、そんな追体験が「時間的制約がなくなる」という意味です。

2つ目の「身体の制約がなくなる」は、バーチャル・リアリティー(VR)の中で、美少女のキャラクターになっていろんな経験をするようなことを指します。そういうふうに他の体を使って何かを体験することもできるようになってきました。

3つ目の「空間の制約がなくなる」は、例えば1カ所で生活しないといけない人が、一瞬で遠隔地の沖縄にいるような状態になることを意味します。

ボディーシェアリングの最終目標は、ニューヨークにいる人がトルコにいる人やロボットの体を使えるといった空間的な制約をなくすことです。遠く離れた場所にある体と、装置を身に着けた自分との間で相互に「触感」を伝え合えるようになることで、実現できると考えています。

新型コロナウイルス感染症が拡大して以降、外出する機会は大きく減りました。その代わりにリモートワークが増え、以前は出張が必要だった会議でもZoomやMicrosoft Teams、Skypeを使って参加するようになりました。映像的な意味では、空間的な制約は既に取り払われつつある。

その延長線上で、ボディーシェアリングのステップに移っていけたらと思います。コロナは悪い影響をもたらしているけれど、そのおかげでイノベーションが動き始めたとも感じています。

身体的かつ空間的な制約による機会や経験の不平等がない世の中になったらいいなと思っているんです。沖縄に住んでいたらスキーを楽しむ機会は少ないし、シベリアに住んでいたらビーチで泳ぐ機会はすごく少ない。「家から出られない」人もたくさんいます。

私も高齢になれば、外出できなくなるときも来るでしょう。だからこそ、みんながいろいろな経験を積める“平等”な世の中にしたいと思います。
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