岡山市のレンタカー業者が、貸し出した車の「放置違反金」の納付命令を受けたのは不服だとして、岡山県を相手取り、命令の取り消しを求める訴訟を岡山地裁に起こした。道路交通法で車の放置違反金は自動車検査証上の「使用者」が払うとされているためだが、原告側は、違反をしたのは車の運転手なのに何も違反をしていない業者が支払うのはおかしい、と疑義を呈する。貸し出し中のレンタカーの「使用者」をめぐる裁判所の判断が注目される。

■消えた男性客

 訴状などによると、事案の概要は以下の通りだ。

 今年1月25日昼、岡山市のレンタカー業者から乗用車を借りていた男性客が、同市内の駐停車禁止の交差点に車両を駐車していたのを岡山県警が確認。県警は同日中に、男性客に出頭をうながすよう求めるファクスを業者に送付した。これを受けて業者は男性客に連絡したが、男性客は出頭せず、反則金を納めなかった。そのため3月22日、自動車検査証上の「使用者」となっている業者に対し、反則金と同額の「放置違反金」1万8千円の納付命令が通知された。

 業者によると、男性客は当初「県警が違反の認定を取り下げてくれた。何か書類が届いても無視してよい」などと伝えていたという。業者は県警からの命令通知を受けて男性客に連絡したが連絡がつかなかった。

 男性客から「無視して」と伝えられていたため、弁明できる時期も過ぎてしまい、業者は今年7月、訴えを起こした。

■「車両の権原を有し…」

 違反をしたのは男性客なのに、なぜレンタカー業者が払うことになるのか。

 根拠となっているのが、平成16年の道路交通法改正で設けられた放置違反金の制度。交通違反をした運転者が反則金を納めなかった場合、都道府県の公安委員会は「当該車両の使用者に対し、放置違反金の納付を命ずることができる」と規定している。これは、違法駐車が増加する中、運転者の特定が難しいケースがあり、使用者の責任を拡充することで駐車違反を減らそうとするのが狙いだった。

 今回のケースでは、男性客が反則金を支払わず消息を絶ったため、車の「使用者」であるレンタカー業者に命令が下った。

 道交法改正前に提言をまとめた有識者の「違法駐車問題検討懇談会」は、車の使用者について「車両の権原を有し、車両の運行を支配し、管理する者」と定義している。このことについて、業者の男性社長は「レンタカーは借受人(男性客)に占有されており、自分たちは運行も支配できていないし、管理もできていない。車検証で使用者、とあるのはあくまで業として、使用しているという意味だ」と主張する。

 これに対し被告の県側は、実態として類似の事例ではレンタカー業者が「使用者」として責任を負い、放置違反金を負担していることなどを指摘。「業界の通念だ」などとして、請求の棄却を求めている。

■「逃げ得」後を絶たず

 不心得な運転手たちの“逃げ得”でレンタカー業者が負担を強いられるケースは後を絶たない。

 一般社団法人「全国レンタカー協会」によると、運転手が反則金を納付せず事業者が放置違反金を負担したケースは、昨年6月〜今年5月末の1年間で全国で454件。協会の担当者は「業者にとっては大きな負担だ」と訴える。このため、レンタカー会社で独自の違反金制度を設けているところもある。

 提訴した業者の男性社長は「業者に理不尽な負担を強いる制度運用が続けば、国が進めるカーシェアリング(車の共同使用)などの事業に深刻な影を落とす。まず運転手の責任をしっかり問うようにしなくてはならない」と訴えている。

2020.11.30 12:00 産経WEST
https://www.sankei.com/west/news/201130/wst2011300002-n1.html