毎日新聞
2020年12月10日 21時40分

 2017年に神奈川県の東名高速道路であおり運転を受けた夫婦が死亡した事故を巡り、無関係の会社をインターネット上で中傷したとして名誉毀損(きそん)の罪に問われた投稿者の小売店従業員の男性被告(53)=埼玉県川越市=に対し、福岡地裁小倉支部は10日、求刑通り罰金30万円の判決を言い渡した。ネット上のデマ拡散や中傷が社会問題となる中、森喜史裁判長は「被告の行動はあまりにも浅慮」と指摘した。



 判決によると、被告は17年10月、あおり運転をしたとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた福岡県中間市の石橋和歩被告(28)=1審で懲役18年、控訴審は横浜地裁に差し戻し=が逮捕された後、石橋被告と同じ姓が会社名にある無関係の建設会社(北九州市八幡西区)の情報が記載されたサイトのURLと「これ?違うかな。」という書き込みをインターネット掲示板に投稿するなどして、名誉を傷つけた。

 森裁判長は「(他者の)投稿の内容に疑問を呈することなく、会社の情報を記載した。(被告の)投稿を元に更に同種の内容を投稿した者がおり、情報が順次拡散した」と指摘。投稿内容について「犯罪者を出す不十分な指導や監督しかできない会社などのイメージを抱かせた」とした。一方で「名誉を積極的に傷つける意図があったとまでは認められない」などとして罰金刑が相当とした。弁護側は控訴を検討する。

 建設会社を経営する石橋秀文さん(50)は「判決でSNS(ネット交流サービス)などを使う人が情報を確認してから投稿するようになってくれることが一番うれしい」と訴えた。

 ネット中傷問題に詳しい清水陽平弁護士(東京弁護士会)は「不特定多数が投稿するネット掲示板で、引用元やURLのリンク先まで含めて判断し、刑事罰を科した判決はまだ珍しい。今後、同じような事例を検察が起訴する指標になり、中傷の抑止効果も期待できる」と話している。【成松秋穂】

無言や中傷電話、日に100件以上も

 被告がネット掲示板に書き込んだのは、「これ?違うかな。」という文章と会社の情報が掲載されたサイトにつながるURLだった。

 被告は、何者かがネットに投稿した「石橋和歩の親って八幡西区で建設会社社長してるってマジ?」との書き込みを目にしてネットで検索。その投稿を引用した上で、検索結果に表示されたサイトのURLを載せた。弁護側は「疑問符を付けており、真実かどうか疑いをもって見られる」などと無罪を主張していた。

 建設会社を経営する石橋秀文さん(50)によると、ネットには石橋さんの名前や住所、電話番号などがさらされ、会社には無言電話や中傷電話が多い日で100件以上かかってきた。判決後、石橋さんは報道各社の取材に応じ「情報の拡散元かどうかにかかわらず、全く無関係の人をさらした時点で同じ責任があると思う」と話した。

 デマ投稿を巡っては、書類送検された11人全員が不起訴となったが、小倉検察審査会で9人が「起訴相当」と判断され、再捜査で今回の被告が起訴された。他5人は略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けた。2度目の検察審査会で福岡県春日市の無職男性(65)が「起訴議決」を受け、検察官役の指定弁護士により10月に強制起訴された。11人のうち判決が出されるのは、今回の被告が初めて。【成松秋穂】

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