狩野浩平
2020年12月12日 10時24分


 大阪と京都を結ぶ京阪電車には、「降ってくる座席」がある。今からちょうど半世紀前の高度成長期に生まれた。超満員の通勤電車を何とかしようと考案された「苦肉の策」だが、時代の移り変わりとともに、年明けから姿を消していくことになった。
 その座席があるのは、通勤用車両「5000系」。都市部でよく見かけるロングシートを備えた車両だが、片側には京阪の他の車両より二つ多い五つの扉がある。
 同社が用意した動画を見せてもらった。扉の上の天井近くに跳ね上がっていた座席が映し出されたと思ったら、ゆっくりと降りてきた。20秒ほどで両隣の座席の間にうまく収まった。背もたれの向こうが窓ではなく、扉なのが見慣れない。
 正式には「座席昇降装置」と呼ばれる。普段、乗客は動く様子を目にすることはできないが、時々公開されており、鉄道ファンらの間では知られた存在だ。
 誕生は1970年12月。満員電車の過密さが深刻な社会問題となっており、京阪でも68年には混雑率が250%に達し、輸送力を高めることが課題だった。当時は線路の数も少なく、ホームの規模も小さい。電車の本数や、1編成あたりの車両の数を増やすことには限界があった。
 そこで、片側の扉を5扉に増やした5000系が登場した。乗り降りにかかる時間を短くし、座席数も減らして、定員を増やすよう設計された。一方で、混雑しない昼間は、座席にゆったり座ってほしい。そうやって考案されたのが座席昇降装置だった。

https://www.asahi.com/articles/ASNDD3D84ND9PTIL02N.html