昨年秋の臨時国会で「桜を見る会」前夜祭を巡る疑惑が浮上して以降、安倍晋三前首相(66)は事実と異なる答弁を繰り返してきた。

 昨年11月20日の参院本会議で、野党議員から政治資金収支報告書の訂正について問われた安倍氏は「後援会としての収入、支出は一切なく、政治資金収支報告書への記載は必要ない」と強調した。「事務所に確認した結果、ホテル側から明細書の発行はなかった」とも述べ、今年3月4日の参院予算委員会では、「事務所側が補填ほてんしたという事実は全くない」と言い切った。

 やまない野党議員の追及に、安倍氏が強気に反発する場面も目立った。

 「事実と違ったら責任をとられるということですね」

 今年2月17日の衆院予算委員会。野党議員からこう詰め寄られた安倍氏は「総理大臣として答弁するということについては、全ての発言が責任を伴う」と明言。ホテル側の対応について、口頭の説明ではなく文書での回答を求められた際には、「ここで話しているのがまさに真実。それを信じていただけないなら、そもそも予算委員会が成立しない」と怒気を込めて反論した。

 だが、東京地検特捜部の捜査でホテル側への補填などが明らかになり、安倍氏側は23日付で、前夜祭を主催した政治団体「安倍晋三後援会」の収支報告書を訂正した。

 訂正したのは、2017〜19年の3年分。山口県選挙管理委員会が公表した訂正後の収支報告書によると、後援会は「安倍晋三後援会桜を見る会前夜祭」の収入を追加計上した一方、「宴会料等」としてホテル側への支出を計上するなどした。

検証できず幕引き疑問
 前夜祭を巡る事件の捜査は終結したが、首相の座にあった安倍氏が事実と異なる国会答弁を繰り返し、国民を欺き続けた責任は重大だ。

 特捜部の捜査では、ホテル側が発行した領収書を後援会とは別の政治団体が受け取り、廃棄していたことが確認された。後援会の会計処理を取り仕切っていた公設第1秘書は、政治資金収支報告書に記載しないことを「慣例だった」と供述した。いずれも違法行為の常態化を疑わせるものだ。

 安倍氏は実態を知らないまま、「収支は発生せず、補填ほてんはしていない」といった答弁に終始した。事務所担当者から虚偽の説明を受けていたとの証言もあるが、安倍氏が真摯しんしに実態を調べたとは言い難い。その報告をうのみにして答弁に臨んだことが事実なら、それこそ軽率のそしりを免れない。

 略式命令を受けた公設第1秘書は罰金を納付し、公開法廷での審理はなくなった。補填の原資や、不記載を続けた動機など、事件の枢要な部分は十分に検証できないままの幕引きには疑問も感じる。(都梅真梨子)

読売新聞 2020/12/25 07:22
https://www.yomiuri.co.jp/national/20201224-OYT1T50280/?r=1