【シリコンバレー=白石武志】米グーグルと親会社アルファベットの従業員ら200人超が同社初の労働組合を結成したことが4日、明らかになった。当初の組合員数は連結従業員数の0.2%にすぎず、従業員らを代表して賃金交渉を担う権限は持たない。人工知能(AI)の使い道などについて経営陣が倫理的に行動するよう求めていくという。

「これは我々が働きたい会社ではない」ーー。同社初の労組で執行委員長に就いたパルル・コール氏らは4日付の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿の中で、アルファベット経営陣が「邪悪になるな」という創業来のモットーを軽視し、利益を優先させているとの批判を繰り広げた。

コール氏は言語解析AIが抱える倫理的な課題を指摘しようとした黒人女性研究者が2020年末にグーグルを解雇されたことなどを例にあげ、同社の経営陣が「あえて発言する者を取り締まり続け、公に重要な話題について労働者が発言しないようにしてきた」と主張。報復を恐れることなく、従業員らが意見を発信するために労組をつくったと述べた。

アルファベットの従業員らは労組の結成にあたり、米国とカナダの通信・メディア業界の労働者らでつくる米国通信労働者組合(CWA)の支援を受けた。4日時点で226人が参加を決めたという。報酬総額の1%を組合費として拠出すれば、契約社員や派遣社員らも組合員として受け入れる。

米国では労組が雇用主との団体交渉権を獲得するには、一般に各州や連邦政府の労働当局の管理下で従業員らによる投票を行い、一定割合の賛成を得る必要がある。アルファベットは労務担当者の声明の中で「これまでと同様、我々は全従業員と直接交渉を持ち続ける」と述べ、新設された労組との団体交渉には応じない考えを示した。

ただ、労組の設立はスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)らが下す各種の経営判断への圧力となる可能性がある。グーグルではセクハラ隠蔽疑惑が発覚した18年に世界各国の拠点で2万人を超える従業員が抗議集会に参加し、会社が問題を秘密裏に強制的に仲裁する制度を撤回させた実績があるためだ。


同年には3000人を超える従業員らがAIの軍事利用に反対する署名活動に参加したことで、グーグルは米国防総省の無人攻撃機計画へのAI提供を打ち切った。労組に加わったニッキ・アンセルモ氏は「集団で行動すれば、経営側が応えてくれることを身をもって体験した」と振り返る。

団体交渉で一律の賃上げなどを求める労組の手法は、高額の報酬で知られるシリコンバレー企業にはなじまないとされてきた。労組のない企業の方が革新的だという見方も根強く、アルファベットの労組によると米IT(情報技術)大手で従業員らが組合を結成するのは同社が初めてだという。

ただ、IT大手の社内では経営陣に民主的な組織運営を求める声が強く、アルファベットの動きは他社にも波及する可能性がある。各社の経営陣は「物言う従業員」の台頭に警戒感を強めており、米アマゾン・ドット・コムでは20年、労組を経営上の脅威とみなし、監視人材を雇って従業員らの組織化を妨害しようとした疑惑も浮上した。

アマゾンでは現在、米アラバマ州の物流施設で働く労働者らが労組結成の賛否を問う投票を近く行う予定となっている。反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いなどをめぐって米当局やライバルからの批判にさらされているIT大手の経営陣は、21年は従業員からの内なる圧力の高まりにも直面することになりそうだ。

日本経済新聞 2021年1月5日 8:05
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN04BCN0U1A100C2000000