新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、内閣官房参与も務める川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんにお話を聞いた。

そもそもこの病気の重症度をどの程度に捉えて対策を打つべきかということも遅からず議論しなければいけません。
僕はエボラが大流行したかのようにこのコロナウイルス感染症を見る必要はないと思っています。

ーー今は重症度を非常に高く見る動きと、「インフルエンザ並みだ。ただの風邪だ」と見る動きと分かれていますね。

かかりやすさ、つまり感染の広がりははインフルエンザほどではないですが、高齢者にとってのリスクの高さ、生命的な危険性はインフルエンザよりも高い。
ただ、若者にとっていえば、多少の後遺症の問題はあるけれど、リスクは非常に低い。

高齢者と若者を同じ傘の下、ひとまとめの制度でいつまでも対策をしていくのはよくないのではないか、というのが今の僕の考えです。

でもそれは根本的な議論であることと、変異株の動向を見極める必要もあり、
いま直ちにできることではないので、とりあえず今やるべきことをやる。
それをやったというのが、2度目の緊急事態宣言に対する僕の捉え方です。


飲食店はむしろ被害者 被害者を支える対策を

ーー分科会がイメージしている制限よりも、政府の打ち出した制限内容、期間は狭まっていると思います。これについてはどう考えますか?

表現の問題もあると思います。メディアの取り上げ方も、飲食店と営業時間の短縮に集中していました。一番わかりやすいし話題にもなりやすいからでしょう。
実際は、営業時間の短縮だけではなく人の行動を変え、感染に対する適度な注意深さを持ってもらう、そして人の流れを少しでも少なくしたいという戦略です。

人の動きを抑える、これは感染症対策の基本的な、素朴な方法です。
人から人にうつる感染症で、人と人の距離が離れている方がうつりにくいのは、
エビデンスが見つかっている見つかっていないということではなく、真理です。

ただ、それをどの程度まで徹底するかは、社会生活・人間生活を営みながらのことなのでバランスが難しい。
感染症予防だけを考えるなら、一番いい方法はどんどん制限をきつくして人の動きを止めることです。
でもそれはできないので、制限の程度をどうするかを決めなければいけません。

例えば飲食店の制限は注目を浴びますが、当然、飲食店全てが悪いわけではない。
どちらかというと、ほとんどの飲食店は迷惑を被る側です。食中毒などと違って飲食店は被害者であって、加害者である場合は少ない。ほとんどの店は善良に営んでいるはずです。

ですから、「被害者を支える」という気持ちで対策を打たなければいけません。誰が加害者かというと、行く人が加害者になり得るということです。

「店がうつす」のではなく、「店でうつる」。行く人の節度が求められるわけですが、一人一人がみんな色々と配慮して行動するわけではない。
残念ですが、その中である程度の注意や規制が出てくるのは止むを得ないことだと思うのです。


【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。
帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。
1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、
2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。
日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-okabe-11-1