どんな時も優しかった9歳の兄は炎の中で声を上げながら亡くなった。1995年1月17日に起きた阪神大震災。神戸市兵庫区にあった自宅で被災した茂森美香さん(34)=大阪府守口市=は当時8歳だった。何もできず、ただその声を聞いていた。26年がたち、2〜18歳の4児の母になった。「兄のこと、震災のことはつらい記憶。忘れたいけど、やっぱり忘れたくない」。17日昼、その場所を訪れ、そっと手を合わせた。

 あの日、住んでいた6階建てマンションは横倒しになった。6階の自宅で並んで寝ていた母の坂本和子さん(2015年に58歳で死去)と兄篤弥人(すみと)さんが和だんすの下敷きになった。窓側にいた茂森さんは奇跡的に無傷で、真ん中に寝ていた和子さんも近所の人に助け出された。だが、一番奥にいた篤弥人さんが取り残された。火の手が迫っていた。

 暗闇から、篤弥人さんの「お母さん!」「助けて!」という声が響いていた。和子さんが「すみと! すみと!」と叫んだ。茂森さんも炎の中に走ろうとしたが、近くの大人に止められた。兄の叫びは「熱いー!」に変わり、やがて聞こえなくなった。1カ月後、焼け跡から遺骨だけが見つかった。

 「情に篤(あつ)く、生まれた3月(弥生)のように温かい人になって」。和子さんがその名に願いを込めた篤弥人さんは、いつも茂森さんのそばにいた。一緒に学校へ通い、家に帰った。毎日行く駄菓子屋で茂森さんが「ほんまはこれも欲しいねん」と言えば、自分の100円玉をくれた。仕事で不在がちな母に代わり、怖かった夜のトイレに付き添ってくれた。

 「一度も怒ることがなかった。けんかもない。ただただ優しかった」。その兄の声が次第に聞こえなくなっていった恐ろしさ、悲しみと喪失感は、26年たっても少しも変わらない。

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https://news.yahoo.co.jp/articles/da0d1ea1e5c85ed4d517a7795b48f0623339b6b7
2021年1月17日 18時17分