世界のワクチン接種率1%にとどまる 各国は接種拡大に工夫、「世界最速」イスラエルは安息日も実施
2021年1月31日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/83125

 新型コロナウイルスの感染者が世界で1億人を超えた。しかし、世界のワクチン接種率はまだ1%程度。来月下旬からは日本でも接種が始まる中、先行する各国では、工夫を凝らして接種拡大に取り組んでいる。(カイロ・蜘手美鶴、ロンドン・藤沢有哉、ワシントン・白石亘、北京・坪井千隼、モスクワ・小柳悠志)
◆世界最速支える保険制度
 英オックスフォード大の研究者らによる統計サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によると、29日現在で世界のワクチン投与数は約8200万回。米中英の3カ国で7割弱を占める。世界の約78億人に行き渡るには程遠い。

 人口あたりの接種数1位はイスラエルだ。保健省によると26日時点で人口の3割が1回目の接種を終了。うち半数は2回目も終えた。
 世界最速のペースを支えるのが国民皆保険制度だ。医療保険組織「健康維持機構」(HMO)が、全国民の既往歴や持病などを電子データ化。優先順位の決定や連絡が素早く行われ、接種数を引き上げている。
 米ファイザー社とは接種者の副反応(副作用)情報などを提供する代わりに、優先的なワクチン供給で合意。ユダヤ教で仕事が禁じられる安息日にも接種を行うなど、工夫を凝らす。

◆英国はボランティア養成
 変異種の急拡大で死者数が10万人を突破した英国は、国民の一割強が1回目の接種を終えた。昨年12月8日に世界で最初に認可ワクチンの接種を開始。その後ファイザー社ベルギー工場の設備改良などで供給に遅れが出たが、政府は「まだ順調に進んでいる」と強調する。
 イングランドでは、接種を行う人材不足が事前に懸念されたため、所定の訓練を受けたボランティアを約8万人養成。英統計局が今月、英本土の成人を対象に行った調査によると、89%が接種を受ける意向を表明。ワクチンへの期待が強まっている。
 感染者数が世界最多の米国。トランプ前政権は12月末までに2000万人の接種を目指したが、達成は1カ月遅れた。バイデン政権は就任100日間で最低1億回、夏までに全国民の接種を目指す。
 ただ、国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「政府と州がうまく連携できていない」と説明。ニューヨーク州のクオモ知事も「ワクチン供給量が分からず、予定が立てづらい」と批判する。バイデン政権は接種を州だけに任せず、災害対応を担う政府機関が100カ所の接種センターを開設。州兵も動員する。
 一部の州は監督者の下で医学生や看護学生が接種を行えるよう規制緩和を実施。高齢者施設と地元薬局が提携し、ワクチンに不安を持つ人に薬剤師が説明して同意を得るなどのきめ細かい対応もしている。
◆1回でOK?
 中国は昨年12月に国有医薬会社「中国医薬集団(シノファーム)」のワクチンを承認。2月中旬の春節(旧正月)休暇までに5000万人の接種を目指しており、政府担当者は「順調だ」と話す。
 中国では公共施設に入る場合などに、感染リスク判定アプリ「健康コード」の提示が求められる。アプリにはワクチン接種歴のひも付けも始まった。今後、接種済みの提示が必要になる可能性もある。
 北京のタクシー会社は1月、配車アプリで運転手のワクチン接種の有無の告知を始めた。男性運転手(36)は「家族や自分を守るため接種した。お客にも安心してもらえる」と話した。
 昨年8月に世界で最も早く国産ワクチン「スプートニクV」を承認したロシア。国民の6割に接種し集団免疫の獲得を目指すが、量産は思うように進んでいない。十分な治験を得ないままのワクチン承認を不安視する人も多く、「独立新聞」によると接種に賛成の国民は46%にとどまる。
モスクワで、百貨店内のワクチン接種会場を訪れる市民=モスクワ通信社
モスクワで、百貨店内のワクチン接種会場を訪れる市民=モスクワ通信社

 低温保管が必要なため、広大な国土を搬送する手段も課題だ。政府は接種率を上げるため、接種が1回で済む「スプートニク・ライト」の開発を進めている。