「先生という人は尊敬できて大好きだったのに、もう信用できない。ただのおっさんです」

 関西地方の裁判所で2003年1月、当時、中学1年生の女子生徒は、強制わいせつ罪に問われた担任の男性教員の刑事裁判で、勇気を振り絞って訴えた。

 女子生徒が当時50代の担任から、わいせつな行為を受けるようになったのは02年夏。1対1で向き合う形で受けていた個別指導で、突然、太ももを触られるようになった。「まさか、先生が嫌なことをするはずがない」。母親にも友人にも打ち明けられずに耐えていたが、犯行はエスカレートしていった。

 秋になると、始業前に誰もいない教室に連れて行かれた。胸を触られ、驚いて抵抗できずにいると、手をつかまれ、担任の下半身を触らされた。

 担任は優しそうな風貌で生徒から人気があった。女子生徒の母親も中学時代に教わった教員だった。

 それでも、「私が泣き寝入りしたら、先生は同じようなことをする」と考え、母親と相談し、翌日、刑事告訴に踏み切った。

 担任はその日のうちに強制わいせつ容疑で逮捕された。校長は当初、その事実を全校生徒に伝えなかったが、女子生徒からの訴えで数日後に公表した。

「胸を触られたぐらいで」…中傷のメール出回る

 <先生の人生をめちゃくちゃにした><あの親子、胸を触られたぐらいで何騒いでいるの?>――。担任の逮捕が明らかになると、批判の矛先は親子に向けられ、保護者やクラスメートには中傷メールも出回った。

 寛大な処置を求める嘆願書には前任校の教員ら46人が署名し、当時、勤務していた学校でも教員らが同調しようとした。

 女子生徒は深刻な学校不信に陥り、一時、登校できなくなった。「急性ストレス障害」の診断も受けた。そんな時、被害を相談していた弁護士が、被害者の権利や担任の公判で意見陳述ができることを教えてくれた。勇気を出して立った法廷で、担任から受けた被害を克明に訴えた。

 世間的にも大きな注目が集まる中、担任には、懲役2年6月、執行猶予3年の有罪判決が言い渡された。

中略

5度の挑戦で司法試験合格…寄り添ってくれた弁護士の姿支えに

 冒頭の女子生徒は昨年12月、弁護士となった。

 司法試験に合格するまで5度チャレンジし、時にはくじけそうになった。だが、中学校時代にわいせつ被害を受け、中傷され、折れそうになった心に弁護士が寄り添い、裁判制度が救ってくれたという体験が気持ちを支えてくれた。

 当時について、「法廷で裁判官の目を見て、自分がされたこと、苦しみを自分の言葉で話して、自分に胸を張れるようになった」と振り返る。

 読売新聞の全国調査では、2019年度までの5年間にわいせつ・セクハラ行為で懲戒処分を受けた教員から被害を受けた児童生徒は、少なくとも945人に上ることがわかっている。

 弁護士になった女子生徒は、過去を振り返り、いま、自分と同じように悩む子供たちがたくさんいるという現状にこんなメッセージを送る。「私は第三者の立場で寄り添い、同じような被害に苦しむ子たちを助けてあげたい。被害に苦しんでいる子も、少しの勇気を持って行動に移してほしい」

https://news.yahoo.co.jp/articles/0b2df3e65a7126fadfbbe3d7234587bfd2a9309b?page=2