これまで着実に縮小してきた米国内のたばこ販売が昨年、横ばいどまりとなり、長年にわたる減少傾向が途絶えた。新型コロナウイルス禍による行動制限を背景に喫煙が増えたほか、電子たばこの健康被害を巡る懸念を受けて、再び従来のたばこ製品に戻る動きが出ているようだ。

 パンデミック(世界的な大流行)以前は、たばこ販売の落ち込みが加速しており、2019年にはマイナス5.5%となっていた。喫煙者が禁煙するか、電子たばこに切り替えたことが要因だった。だが、「マールボロ」ブランドを持つ米たばこ大手アルトリアが28日公表したデータによると、2020年の米国内のたばこ販売は前年比横ばいとなり、こうした減少傾向にブレーキがかかった。

 アルトリアはこれについて、消費者が自宅で過ごす時間が増えたことに加え、ガソリンや旅行、娯楽向けの支出が減り、たばこに回す資金が増えたことがあると分析している。また、飲酒も増えており、スピリッツメーカーの業績を押し上げている。

 また、消費者や業界幹部らによると、電子たばこに対する増税やフレーバー(風味)付き製品の禁止措置、健康被害に関する消費者の混乱を受けて、電子たばこの利用者の一部が従来のたばこ製品に戻っていることも要因だと指摘している。

 アルトリアは28日、2021年の販売見通しについては公表せず、新型コロナウイルス予防ワクチンの普及具合やワクチン接種後の消費行動の変化に左右されると説明した。

 昨年の米国内のたばこ販売は、2015年の水準も上回る。2015年には、ガソリン価格が急落したことで、生活必需品以外に消費に回せる金額が増えたほか、初代の電子たばこを試した多くの喫煙者が再び従来のたばこ製品に切り替えていた。初期の電子たばこ製品はヘビースモーカーを満足させるほど、ニコチンを効果的に提供できなかったようだ。だがその後の2017年には、電子たばこの米新興企業ジュール・ラブズの新製品が人気となり、売上高が急増した。

 だが、2019年秋を境に、電子たばこの勢いに急ブレーキがかかる。当時、電子たばこの利用者の間で、原因不明の肺疾患が急増したためだ。米疾病対策センター(CDC)が調査を開始するとともに、電子たばこの利用を控えるよう警告した。その後、マリフアナ入りの製品に含まれるビタミンEオイルとの関連が判明したが、電子たばこの安全性に関する消費者の意識が改善することはなく、販売もその後の急減から回復していない。

 保健当局者は電子たばこはリスクが全くないわけではないが、従来製品の喫煙よりはリスクが著しく低下すると指摘している。米国では喫煙による死者が毎年48万人に上る。ユーロモニターが2020年初頭に実施した調査によると、米国では電子たばこは従来のたばこ製品と同じくらい、もしくはそれ以上に危険だとする回答が73%に上った。ユーロモニターは、電子たばこの安全性に関する意識は、調査対象の20カ国すべてで悪化したとしている。

ソース
https://jp.wsj.com/articles/SB11421755720397894739404587250381706272076