2021年02月10日 06時00分
 昨年6月、東京都中央区晴海4のマンションで住民の母親(84)と長女(54)の遺体が見つかり、警視庁は9日、遺体の状況から母親を殺害したとして、殺人容疑で、長女を容疑者死亡のまま書類送検した。高級店が立ち並ぶ銀座に程近く東京五輪・パラリンピック大会の選手村がある晴海地区。きらびやかな世界の片隅で暮らす親子は電気や水道を止められ、追い詰められた末、最期を迎えた。

 東京五輪の組織委員会が入る高層ビル「晴海アイランドトリトンスクエア」、選手村のマンション群「晴海フラッグ」がそびえる晴海地区。事件は、そのすぐそばの築51年のマンションで起きた。
 「臭いがするので安否確認してほしい」。昨年6月5日、同庁月島署員が管理会社の依頼で室内に入ると、母親が和室で布団をかぶった状態で、長女は廊下に倒れて亡くなっていた。
 捜査関係者によると、いずれも死後3カ月以上が経過。母親の頭には殴られた痕があり、死因は失血死だった。長女の死因は低体温症か凍死で、栄養失調状態でやせ細っていたという。
◆長女が殴って殺害か、傘立てから母親の血痕
 部屋にあった傘立てから母親の血痕が検出され、現場の状況から長女が昨年1〜2月に傘立てで母親を殴って殺害し、直後に死亡したとみられる。
 親子は、相続した目黒区の家屋を売却し、この資金で暮らしていたとみられる。アパートなどを転々とし、2年半前からこのマンションで暮らし始めた。母親は年金とわずかな蓄えを切り崩し、20代後半から無職で引きこもりがちだった長女を養っていた。
◆遺体発見時の口座残高は5000円
 晩年、親子の生活は困窮していた。遺体発見時の預金口座の残高は5000円。家賃は母親が死亡する4カ月前から滞納され、電気、ガスに続き、昨年1月末には水道も止められていた。一方で、親子は区の福祉サービスや生活保護を利用していなかった。
 中央区などによると、水道が止められていた昨年2月13日、都水道局職員が自宅を訪ねると、長女とみられる女性が「なんとか算段つけて支払う」と玄関ドア越しに答えた。翌14日にも、区の地域包括支援センター職員が困り事がないか確認に訪れたが、「ない」と返答していた。同19日以降の新聞が取り込まれておらず、その直後に長女が死亡した可能性があるという。

 同じマンションの女性は「親子は人を避けて暮らし、交流のある人はいなかったようだ」と打ち明ける。
◆「生活費に困り、将来悲観してしまったのか…」
 現場から長女の遺書などは見つかっておらず、なぜ母親の殺害に至ったのかは明らかになっていない。警視庁幹部は「生活費に困り、生きていけないと将来を悲観してしまったのか…」とおもんぱかる。
 区の担当者は「自宅に状況の確認に訪れたが、本人の意思でどうしようもできなかった。支援対象の一歩手前にある人たちをどう救うかが課題だ」と苦悩をにじませた。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/85014