産経新聞(高崎健康福祉大教授 東福寺幾夫)2021.2.22 16:43
https://www.sankei.com/life/news/210222/lif2102220023-n1.html

「ニコチン、タール、一酸化炭素(CO)」をたばこの3大有害物質という。今回は喫煙とCOの関連について述べたい。

 人体は、肺で空気中の酸素を取り入れ、体内から運ばれてきた二酸化炭素と交換する。酸素は肺胞で血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンと結合し、血流に乗って身体の各部に運ばれ細胞に供給される。酸素の供給が阻害されると、人体は正常に機能せず、最悪の場合は死に至ることになる。

 酸素と結合したヘモグロビンを「酸化ヘモグロビン」、酸素を放出したヘモグロビンを「還元ヘモグロビン」という。動脈を流れる全ヘモグロビンに占める酸化ヘモグロビンの割合を「動脈血酸素飽和度(SPO2)」といい、呼吸機能の指標として利用されている。

 健康な人の安静時のSPO2正常値は96%以上で、90%を下回ると、酸素吸入などの医療的処置が必要とされる。SPO2は写真のように、パルスオキシメーターを使用することで、人体に苦痛を与えることなくリアルタイムで測定できる。

 COは無色、無臭、無刺激の気体で、炭素を含む物質が燃焼することで発生する。当然、たばこを吸うと、たばこの燃焼に伴って発生したCOも吸い込むことになる。COはヘモグロビンとの結合力が酸素の200倍以上という厄介な物質で、血液の酸素運搬を阻害する。

 COの環境基準は表に示すように連続24時間で10ppm、連続8時間では20ppmとされている。空気中のCO濃度が高まると、表に示すように頭痛、吐き気、めまいなどの症状が表れ、死に至ることもある。

 禁煙外来では、呼気に含まれるCO濃度を測定することになっている。日本禁煙学会の昨年5月の資料によると、1日1箱のたばこを吸う人の呼気CO濃度は20〜25ppm程度の値を示すことが知られている。喫煙によるCO摂取で死亡することはないが、COはヘモグロビンによる酸素運搬を阻害し、持久力低下などをもたらすほか、動脈硬化の一因にもなるという。

 COと結合したヘモグロビンの割合を「COHb濃度」といい、その正常値の範囲は2%未満である。正確な測定には動脈血を採取して血液ガス分析を行う必要があるが、呼気CO濃度が20ppmの人のCOHb濃度は、正常値を上回る5%程度と考えられている。

 新型コロナ感染症で肺機能が低下すると、SPO2が低下することから、在宅療養下などにある患者にパルスオキシメーターを貸し出し、肺機能をモニタすることが行われている。ところが、パルスオキシメーターには酸化ヘモグロビンとCOヘモグロビンを見分けることができないという特性がある。すなわち、たばこを吸う人のSPO2値は酸化ヘモグロビンとCOヘモグロビンを合算した結果となるということである。これでは肺機能の低下を正しく見極めることはできない。喫煙習慣を有する人がパルスオキシメーターを使用する場合には、禁煙が前提となることを理解していただきたい。

 喫煙は呼吸器感染症の重症化リスクの大きな要因でもある。「With CORONAの時代」は「Without Tobaccoの時代」でもある。

https://www.sankei.com/life/photos/210222/lif2102220023-p1.html