混乱を極めた東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長人事は、最終的に橋本聖子前五輪相の起用で決着した。
世論調査では橋本氏に高い期待が集まり、森喜朗前会長からの交代劇はひとまず奏功したと言える。

ただ、今後は外国人観客の受け入れの是非など、過去にない難題への調整が待っている。
橋本氏には森氏のような強い政治力はない。単なる「お飾り」に終われば、大会は今度こそ息の根が止まるだろう。


組織委は、世論受けしやすい橋本氏に会長職をすげ替えたことを好機と捉え、大会準備作業を加速させる考えだ。

ある組織委幹部は、国内外の感染拡大状況にかかわらず、来日する選手・役員団に徹底したPCR検査を課したり、
選手村やホストタウンからの外出を禁じる隔離策を取ったりすることで、「ワクチンの接種状況に左右されず、大会を確実に実現する」と言い切る。

しかし、橋本氏を待つ職責を考えると、楽観論ばかりは唱えられない。過去に例のない調整をいくつもこなさなければならないからだ。
最も重要となるのが観客の扱いだろう。外国人観客の訪日問題と、国内の競技場の入場制限という、2つの重い課題がある。

大会には海外から約200万人とも言われる観客が押し寄せる。一方、国内では感染状況の緊迫化や変異株の拡散などを踏まえ、
1月からビジネス往来も含む全ての外国人の入国を原則認めない措置が継続されている。

外国人観客の存在は、五輪中止論を煽る最大の要因となっている。
国内では、昨年入国時の検査をすり抜けてイギリス型変異株が国内に持ち込まれたと見られる事例が発生した。

こうした状況下で大勢の観客が一気に入国した場合、「空港から都内まで、公共交通手段の使用を禁じることは無理」
(組織委幹部)という事情もあり、国民の不安感は大きい。

ワクチン接種の遅れも大きな懸念材料だ。欧米から2カ月遅れでようやく始まった接種だが、
スケジュールは後退するばかりで、7月の五輪開幕までに一般国民への接種が始まる可能性は低い。

「国民の不安感を和らげるためには、橋本氏が外国人観客を断ると決断する必要がある」(東京都幹部)という声が高まっているが、当然、そう簡単には行かない。

組織委が用意した五輪のチケットは、国内の一般販売分で約450万枚、海外分は約200万枚。
訪日外国人の観戦を認めないとなれば、海外でのチケット払い戻しや海外スポンサーへの補償など、膨大な事務作業が発生する。

なにより、「観戦スタンドが日本人観客だけとなれば、海外の選手が一方的なアウェーの状況に追い込まれる」という批判も受け入れなければならない。
組織委関係者は「各国のオリンピック委員会との調整や海外での払い戻し事務などを考えると、4月中には受け入れの是非を判断しなければならない」と語る。

かりに外国人観客の受け入れを断ったとしても、競技場への入場制限という別の難題に取り組まなければならない。
現在、緊急事態宣言下の競技場では、「収容人数の50%以下、かつ5000人以下」という厳しい入場制限が課せられている。

組織委では、4〜5月頃に国内のスポーツイベントの状況に合わせ、大会の入場制限の規模を判断する考えだが、
大会当日もワクチンの国内接種率が低迷しているだろうことを考えれば、感染リスクへの懸念が残る以上、競技場を満員とする可能性はゼロに近い。

入場制限を課す場合、すでに販売しているチケットを「間引く」作業が避けられない。チケットを一度すべて無効にする、
購入者を対象に再抽選を行うことなどが想定されるが、いずれも難しい対応が求められる。観戦を楽しみにしていたチケット購入者の混乱は必至だ。

開催直近に国内で感染が再び広がっているならば、「無観客」という事態も決断しなければならない。

組織委が見込んだチケット収入は総額約900億円。1兆6000億円以上もの大会の総費用と比べれば5%程度ではあるが、
払い戻しの事務手続き費用などを合わせて考えると、問題は膨らむ可能性が高い。

大会の1年延期を踏まえ、組織委が大幅な見直し策を講じても約300億円しか捻出できなかったことも踏まえれば、900億円を「小さな額」としては片づけられない。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/02241608/?all=1