訴状などによると、男性は2016年5月、「スマートフォンでわいせつな動画を見せた」として県少年保護育成条例違反容疑で県警に逮捕され、
取り調べのため12日間拘束された。しかし、男性のスマホからわいせつな動画の閲覧履歴が確認されず、
家裁は同10月、「非行事実なし」と結論付けたという。男性は「県警の取り調べで黙秘権を侵害され、接見内容を聞き出そうとされた」と主張している。

3日の判決を前に、原告の20代男性=熊本市=が西日本新聞の取材に応じた。
男性は逮捕当時を振り返り「熊本県警は冤罪(えんざい)と認めて謝罪してほしい」と訴えた。

 「あなたに容疑がかかってます」。熊本地震1カ月後の2016年5月16日朝、勤務先に現れた警察官の一言で、男性の人生は一変した。

 「思い当たることがない」と言っても聞き入れてもらえない。署で逮捕され、
避難所で隣り合う場所にいた女児の母親が「娘がわいせつ動画を見せられたところを見た」と県警に訴えたと知った。

 取り調べの口調は日に日に厳しくなった。非行を前提に「反省の色がない」「(男性に)不利になるものばかり出てきている」などと言われた。
10歳ほど年上の警察官には「自分で自分の首を絞めよっとぞ」と詰め寄られた。

 男性が否認し続けられたのは、面会に来る母親や弁護士に励まされたからだ。「認めた方が楽、とまでは思わなかったが、母や弁護士の支えがなかったら…」。
27日の釈放まで続いた12日間の取り調べを「地獄」と振り返る。

釈放後1カ月ほど、自宅にひきこもった。次第に外出できるようになったが、職場復帰した夏のある日、ストレスが爆発した。

 母親によると、飲み会に出掛けた男性が「何があったか覚えていない」と言い、真っ青な顔で震えながら帰宅した。
繁華街で大勢の警察官を見掛けたことが引き金だった。それ以来、記憶を突然失う「解離性健忘」の症状が現れ、メモ帳が手放せなくなった。
通院し数カ月で改善したが、逮捕から1年間は下痢などの体調不良が続いた。

 地震から間もなく5年。男性は逮捕された日が近づくと今でも不安になる。「出勤するのが怖くなる。警察がいるような気がして」

 昨年9月、訴訟の尋問で、当時取り調べを担当した警察官は、男性の代理人弁護士に「今でも彼(男性)の話を信用していないのか」と問われ
「そうですね」と答えた。男性は「このままではまた、同じような被害者が出ますよ」とため息をついた。
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