新型コロナウイルスの緊急事態宣言は首都圏4都県での延長が5日に決まり、全国で一時停止中の旅行需要喚起策「GoToトラベル」事業も再開が遠のくことになった。地方の観光地でも旅行客激減による苦境が長期化する中、「さらに耐え忍ぶしかない」と嘆く声が広がった。

 通常なら観光客全体の4分の1を占める首都圏からの来訪が、昨秋からの「第3波」以降はほぼゼロとなった四国有数の温泉街・道後温泉地区(松山市)。道後プリンスホテルの河内広志社長(68)は「(関東からの客が)戻ってくると期待していたが、また2週間、耐えていくしかない」と落胆を隠さない。

 2020年12月28日から全国に拡大されたGoToトラベル停止により、同地区では年末年始を中心に数千人規模のキャンセルが出た。同ホテルは年明け以降、営業は中四国の修学旅行客を受け入れる日に限定。この3カ月の稼働日数はわずか26日だ。卒業シーズンの3月は近場で過ごす県内客も期待されるが、本格的な復調には県外客が欠かせない。河内社長は「GoToトラベルの再開に全ての宿泊事業者の命運がかかっていると言っても過言ではない。4月には再開してほしい」と訴える。

 東京の羽田空港と1日3往復の定期便で結ばれる和歌山県白浜町の南紀白浜空港は宣言発令後の1月中旬から1〜2往復の減便が続く。1〜2月の搭乗者数は前年より7〜8割減。首都圏の宣言延長の可能性が報道され始めてから、運営会社の南紀白浜エアポートが扱う旅行プランもキャンセルが相次いでいるという。担当者は「春休み需要を期待していたので延長は苦しい。仮に2週間で解除されても、すぐに搭乗者は増えないだろう」と話す。


地元の誘客強化目指す
 首都圏からの宿泊客が全体の約3割という白浜町の「インフィニートホテル&スパ南紀白浜」は売り上げが1月は前年比約40%減、2月は同約35%減。佐藤智之支配人(58)は「2月の客室稼働率は10%を割っている」と嘆く。3月の予約は前年を上回る状況だったが、宣言延長が報道されるとキャンセルが入り始めた。「3月も前年を下回るかもしれないが、延長は想定内。2月に開設した料理などのオンラインショップや地元の誘客強化でしのぎたい」と語る。

 やはり首都圏からの客が多い金沢市の観光関係者からは宣言期間延長に「やむを得ない」との声が上がった。「早く解除して少しでも人が来てほしいが、収束せずに3度目の宣言となる方が困る」。国の特別名勝「兼六園」近くで和菓子店を営む男性はそう話す。


 金沢の観光は15年に延伸開業した北陸新幹線の効果で活況を呈してきたが、新型コロナの感染が急拡大した20年4月の利用客は前年同月の8%に激減。GoToトラベルが停止される直前の11月は同70%と持ち直したが、21年1月は同26%に減った。新鮮な海の幸が人気の近江町市場も観光客の姿はまばら。商店街振興組合の江口弘泰事務長(64)は「早く安心して買い物ができる環境になってほしい」と願う。

遊覧船の定時運行できず
 松江城(松江市)を囲む堀川を50分かけて巡り、船頭が民謡「安来節」などを披露する陽気なガイドで人気の堀川遊覧船。2月の1日の平均乗客数はコロナ禍前の19年に比べ75%減の103人で、10人台の日もあった。「20分おきの定時運航から、客が来れば船を出す形になった」。管理する松江市観光振興公社の乙部(おとべ)明宏専務理事(65)は肩を落とす。

 救いは行き先を近場に変更した修学旅行の団体客が増えていることだ。来訪する学校の校歌を歌えるよう練習する船頭も現れている。5日も降りしきる雨の中、隣県の鳥取からの高校生たちが笑顔で乗り込んでいた。乙部さんは「GoToトラベルの再開など、ピストルが鳴った時のための準備もしている」と話す。【斉藤朋恵、竹内之浩、深尾昭寛、小坂春乃】

毎日新聞 2021/3/5 20:46(最終更新 3/5 20:46)
https://mainichi.jp/articles/20210305/k00/00m/040/293000c