「生活用品大手」。アイリスオーヤマは長くこう呼ばれてきた。収納用品や寝具、ペット用品……。LED照明をきっかけに家電に本格参入したのは2009年。当時、売上高の1割ほどだった家電事業がいま6割を占める屋台骨だということは、案外知られていない。「家具も家電も、生活必需品という意味では同じ」。家電開発部長の原英克(44)は言い切る。

 JR川崎駅前の商業施設ラゾーナ川崎プラザの一角に、アイリスオーヤマ傘下のホームセンター「ユニディ」が店を構える。正面にはテレビが並ぶ。同じ50インチの液晶テレビはどれもカタログ上の性能は大差ない。

 しかし、電機大手の製品に比べ、アイリスの自社製品「LUCA(ルカ)」は約2万円も安い。販路は家電量販のほかにホームセンターやネット通販と幅広い。

 「もう一度、現場でものづくりをしたい」。電機大手で30年超、テレビ開発に身を捧げた影山敦久(60)は勤め先を定年退職した後の昨春、再就職先にアイリスを選んだ。ブラウン管の時代に画質調整の技術を磨き、その後はテレビの心臓部にあたる半導体開発にあたった。アイリスに移って、映画やスポーツなど番組のジャンルごとにAI(人工知能)が画質を自動調整する機能をつくった。「万能な画質を目指す大手であれば、実現しない技術」と影山は言う。

 大阪・心斎橋にある開発拠点がいまの職場だ。100人を超える技術者が集う。パナソニックやシャープなど他社からの移籍組も少なくない。影山も、皆も、企画、開発、生産、全てに携わる。「達成感がある。歯車じゃない」

 洗濯機の開発を担当する山本憲太郎(52)も、電機大手のグループ企業を経て、アイリスに入った。ニーズがみえない複雑な機能の開発を散々、目の当たりにしてきた。だからこそ、「スペック(機能)競争に陥っても意味がない」と確信している。大事なのは、「本当に必要な機能」と「値段」のバランス。むしろ「むだな機能をそぎ落とす引き算」という。洗濯機ならきれいに洗えて、干せるか。

 とはいえ、大手には半世紀以上にわたり積み上げてきたノウハウとブランドがある。特に冷蔵庫のような「一家に一台」の家電では、信頼感がものを言う。

 かつては家具を担当した淡路雄一(48)が冷蔵庫を担当して1年半がたつ。機能面では大手に負けないのものをつくる自信がある。だが「大手と張り合って、選んでもらうには、求められる機能をぐっと押し出さないといけない」。思い切った冷凍庫の広さもそうした戦略の一環だ。大手では見かけないつくりだ。「我々は後発メーカー。守るものはない。機能をどう際立たせるかに集中できる」と淡路は笑う。

=敬称略(内山修)

朝日新聞 2021年3月10日 6時30分
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