全米一の大都市ニューヨークを離れる人の流れが止まらない。直接の理由は1年にわたる新型コロナウイルスの大流行だが、
背景には近年続いた家賃の高騰や郊外生活への欲求も。転居先となった周辺地域の不動産需要は活況で、「ドーナツ化」の兆候も見られる。

コロナの大流行から半年余りで少なくとも30万人がニューヨークを去った―。
地元紙ニューヨーク・ポストは、郵便局に出された転送請求などの数を基に、昨年3月から10月末までの市の人口流出が、前年の2倍の規模で起こったと報じた。

市の2019年の人口は約840万人。昨年全体の公式統計は発表されていないが、11月以降も流出は続いているとみられ、
「富裕層などが去った影響で、ニューヨークから340億ドル(約3兆5600億円)の富が消えた」とするシンクタンクの試算もある。

「アパートの中で2人同時に仕事の電話をしなければならない。気が散って仕方なかった」。
昨年12月にニューヨーク市中心部から隣のニュージャージー州に引っ越したNPO勤務ジュリー・ベンズさん(31)は語る。

コロナ禍に突入してからは、プログラマーの夫ブライアンさん(31)とともに在宅勤務。多様な飲食店や娯楽施設も閉まり、
高額な家賃でニューヨークに居続ける必要はないと判断した。

40代の環境エンジニア、ジム・ベナーさん夫妻も同様に市内を離れ、車で1時間半の郊外に転居した。
「6歳と2歳の子どものために、前から教育環境の良い田舎暮らしを考えていた。コロナは市内を出る最後の理由だった」。
多くの友人も市内からの脱出を計画しているという。

市場調査会社によると、市中心部マンハッタン区の今年1月の募集賃料(中央値)は2750ドル(約29万円)と前年同期から15・5%も下落。
リーマン・ショックの影響が残る2010年以来の水準となった。

一方、ニューヨーク市郊外ウェストチェスター郡の不動産業ジェレミー・ザッカーさん(45)は「この地域の昨年の一戸建ての取引件数は過去最高だった。
価格も以前のピークだった07年ごろを25%も上回っている」と話す。

現在、国内ではワクチン接種が進み、今年中には以前の生活を取り戻せるとの楽観論も。
コロナ収束後は従来の景気回復時と同様、賃料が下がった市内に再び人々が集まるとの観測もある。

それでも、ザッカーさんは「今回は違う。マンハッタンのオフィスビルの高層階にいなくても生産性が保てることに多くの人が気付いた」と指摘。
市内に対する郊外の優位は続くと自信を示している。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/90627

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