【別の運転手(聞き取り当時49歳)の話】

「巡回していたら、真冬の格好の女の子を見つけてね」

2013年の8月くらいの深夜、タクシー回送中に手を挙げている人を発見し、タクシーを歩道につけると、小さな小学生くらいの女の子が季節外れのコート、帽子、マフラー、ブーツなどを着て立っていた。

時間も深夜だったので、とても不審に思い、「お嬢さん、お母さんとお父さんは?」と尋ねると、「ひとりぼっちなの」と女の子は返答をしてきた。

迷子なのだと思い、家まで送ってあげようと家の場所を尋ね、その付近まで乗せていくと、「おじちゃんありがとう」と言ってタクシーを降りたと思ったら、その瞬間に姿を消した。確かに会話をし、女の子が降りるときも手を取ってあげて触れたのに、突如消えるようにスーッと姿を消した。明らかに人間だったので、恐怖というか驚きと不思議でいっぱいだったそうである。

「噂では、他のタクシードライバーでもそっくりな体験をした人がいるみたいでね。その不思議はもうなんてことなくて、いまではお母さんとお父さんに会いに来たんだろうな〜って思ってる。私だけの秘密だよ」

その表情はどこか悲しげで、でもそれでいて、確かに嬉しそうだった。

『呼び覚まされる霊性の震災学』(新曜社)などより。

金菱さんはこう振り返ります。

「当時のゼミ生・工藤優花が、毎週被災地・石巻(宮城県)に通い、客待ちのタクシー運転手100人以上に声をかけ、得た証言です。いやいや、何かの見間違いなのでは……で片づけられなかったのは、“幽霊”を乗せ実車メーターに切り替えた記録や、“幽霊”を乗せた結果、無賃乗車扱いとなった記録などが裏付けとしてあったためです」