私たちの健康は微妙なバランスの上に成り立っている。
栄養や生活習慣だけではなく、リーマン・ショックや東日本大震災、コロナ禍のような社会の大変動もまた、多くの人々を脅かす。
今回紹介する『日本人の健康を社会科学で考える』では、経済学者が統計データを使って健康に影響を与える社会的な要因の分析を試みた。
社会課題の解決に関心のある若い世代にヒントを与えてくれる一冊だ。

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■非正規雇用のリスクは2割高い
非正規雇用が健康に何らかの影響を与えるかどうか知るために、著者は厚生労働省の「国民生活基礎調査」のデータを使ってサンプルA(約46万人)、
サンプルB(約3万7000人)の2つ集団を対象に調べています。調査にあたって3つの変数に注目しました。
第1は主観的な健康感です。自分の健康状態を「よい」「まあよい」「ふつう」「あまりよくない」「よくない」の5段階で判断してもらう調査の結果を使用しました。
第2は自覚症状があるかどうか。「あなたはここ数日、病気やけがなどで体の具合が悪いところ(自覚症状)はありますか」という問いへの答えを用いています。
そして第3は日常生活の活動面で支障があるかどうかです。
「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何らかの影響がありますか」という問いに「ある」と答えたかどうかを調べたデータを分析しました。

結果は、「大まかに言えば、健康がよくない状態になるリスクは、非正規雇用者は正規雇用者の二割程度高くなるようだ」というものでした。

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なぜ、そうした結果が得られたのだろうか。
とりわけ、所得面の影響を取り除いても非正規雇用者が健康面で不利な状況に置かれているのには、二つの理由が考えられる。
第一は、就業形態の不安定性である。低賃金であることは当然つらいが、それに加えて雇用が将来にわたって保証されていない状況は精神的にこたえる。
第二は、セーフティーネットから外れるリスクである。正規雇用者であれば、社会保険料は給料から天引きされ、
厚生年金や組合健康保険など被用者保険によるセーフティーネットの枠組みの中にとどまれる。
しかし、非正規雇用者の場合、短時間労働であれば、被用者保険の適用対象外になる確率が高くなる。
(第2章 非正規雇用を健康面から評価する 71ページ)

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もちろん、国民年金や国民健康保険などに加入すれば問題はないですが、低所得のために保険料が支払えずにセーフティーネットから外れるリスクが高くなります。
リスクに自分自身で備えるしかないという状況に置かれることも、就業形態が不完全であることと同様に、精神的によくないと言えるでしょう。

(中略)

■学歴はどこまで健康を左右するか
中高年になると、どこかしら体の不調を感じる人が増えてきます。ただ、病気知らずで、いたって健康な毎日を続けている人が一定数いることも事実です。
「中高年になると、社会人として大学や大学院に通っている人は別として、学歴はほぼ確定している。
その確定した学歴によって、中高年の健康格差はどこまで決定されているのだろうか」。これが本書の問題意識です。学歴についても興味深い結果が出ました。

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第一に、学歴が低いほど中高年の健康状態の悪化するペースが速まるだけでなく、日常生活活動面で問題が発生し、
特定の生活習慣病を発症するリスクが高くなる傾向も認められる。学歴による健康格差が加齢によって拡大するかどうかは、
先行する実証研究でも大きな注目点となってきた。ここでの分析結果は、加齢による健康格差の拡大を確認するものとなっている。
また、学歴による健康格差を格差相対指数という尺度で評価すると、日常生活活動や一部の生活習慣病については問題発生や発症のリスクが二倍を上回るものもある。
学歴による健康格差の度合いが、けっして無視できないことが確認された。
(第5章 中高年の健康は学歴にどこまで左右されるか 231ページ)

(以下略、全文はソースにて
https://news.yahoo.co.jp/articles/d97f44b24d9e92af6744a6846158d0965a96b034