25日から福島県を皮切りに始まる東京五輪の聖火リレー。五輪延期の原因となった新型コロナウイルスの感染状況が予断を許さない中、大会組織委員会や自治体は、「密」を避ける感染防止対策と大会に向けた機運醸成という、相反する課題の両立を模索している。著名人ランナーらの辞退も相次ぐが、専門家は「コロナ禍で聖火をつなぐことに意味がある」と指摘する。(石原颯)

■「来て」と言えず

 「本当はもっと盛り上げたいが…今でもバランスを悩んでいる」

 聖火リレーの出発地となる福島県の担当者は、こう打ち明ける。東日本大震災からの復興をアピールし、世界に感謝を伝える機会だが、最優先は感染防止。沿道での人数制限は行わないが、人が殺到するなどの状況を避けるため、積極的なPRは控えている。

 スタート地点のスポーツ施設「Jヴィレッジ」(楢葉町、広野町)での出発式も、無観客で開催。「コロナさえなければ多くの人に来てもらい、復興が進んでいる部分や今後の課題を知ってもらいたかった。『ライブ中継を見て』と言わないといけないのがもどかしい」と声を落とした。

 福島から聖火を引き継ぐ栃木県の担当者も「現状、盛り上げるという言葉を使えるような状況ではない」と語る。同県では2月25日に組織委が聖火リレーのガイドラインを発表した際、感染拡大に伴う外出自粛要請が続いていたこともあり、公道でランナーを走らせない選択肢も一時検討。結局、予定通りのルートでの実施するが、五輪を待ち望む熱の高まりは望むべくもない状況だ。

■密あればスキップ

 聖火リレーでは、政府が昨年12月にまとめた感染対策の「中間整理」に基づき、徹底的に「密」を避ける対策がとられる。ランナーは市町村単位で事前に公表しているが、走る経路は直前まで非公表。観覧者同士の肩が触れるほど密集し、解消が見込めない場合、その区間をスキップすることも想定している。

 大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は「最も重要なのは密状態の観覧自粛。観覧自体はしていただいて結構」とするが、栃木県の担当者は「安全に聖火を届けるのが一番。われわれから『見に来てください』とは決していえない」と神経をとがらせる。

■ランナー補充も課題

 感染への懸念や五輪延期に伴いスケジュール調整がつかなくなったことなどを理由に、著名人ランナーの辞退も相次いでいる。福島の聖火リレーで第1走者を務めるサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のW杯優勝メンバー、澤穂希さんをはじめ、人気グループ「TOKIO」や将棋の藤井聡太二冠、俳優の広末涼子さんらの辞退が判明。一般ランナーの辞退者も出ており、各自治体は欠員の補充に追われる。

 聖火リレーは開会式のある7月23日までの間、47都道府県を約1万人のランナーがつなぐ約4カ月間の長丁場。組織委の橋本聖子会長は「(聖火リレーコンセプトの)『希望の道をつなごう』に沿って、日本全国に希望をつなげたい」とするが、仮にクラスター(感染者集団)が発生すれば、大会本番への逆風にもなりかねない。

■つなぐことに意義

 「希望の火」が国立競技場の聖火台に灯されるまでの道のりは険しいが、感染を広げずに聖火リレーを完遂することが、五輪への機運を高めることにつながるのは間違いない。

 筑波大学の真田久教授(五輪史)は「コロナ禍で社会が分断される中、知恵を出し合いながら困難を乗り越え、『安全に聖火をつなぎ切る』こと自体に意義がある」と語る。

 「ランナーや送り出す家族、自治体関係者など、さまざまな人々が協力し合って聖火をつないでいく姿が示すことが重要。ライブ中継などを通して発信されれば世界を勇気づけ、レガシー(遺産)として後世まで残されていくだろう」と強調した。

3/24(水) 19:59  産経新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/471eada715630df5bbeafc1c8f123facdfd186a4?seika2020

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