※神戸新聞

 島だけど、「漁師」ではなく「猟師」です−。兵庫県姫路市家島町の家島本島で、わな猟のハンターが地域住民から誕生した。姫路から高速船で約30分、直線距離にして約10キロの家島諸島に海を渡ってすみ着き、急増中とみられる島のイノシシ。その獣害を自分の手で減らしたいと立ち上がったのは、1人の男性生花店主だった。(大山伸一郎)

 昨年11月、狩猟免許を取得した同町の濱野年晃さん(48)。きっかけは10年ほど前にさかのぼる。庭で育てていたサツマイモの苗が何者かに抜かれていた。「まさか?」と思ったが、瀬戸内海で泳ぐイノシシの目撃情報は耳にしていた。その後、島内ではササユリの球根が根こそぎなくなる“事件”も起きた。

 地元区会が設置したわなにイノシシがかかれば、県猟友会飾磨支部のハンターが船で渡って仕留めてくれていたが、3年前、小学生の長男が路上で巨大なイノシシに遭遇。本業の生花店の傍らで、わな猟免許を取得することを決意した。

 島で生まれ育ち、山形大農学部の学生時代には東北で山登りに没頭したおかげか、獣道を驚くほど簡単に見分ける濱野さん。くくりわなと箱わなを使う「ハンター」デビューを年末に果たし、3カ月足らずの猟期で3頭の獲物を捕獲した。4月からは鳥獣駆除に向けた活動も始める。

 家島諸島では現在、兵庫県立大学と県森林動物研究センターが家島本島、坊勢島、男鹿島、西島の4島に計60台の自動撮影カメラを設置し、生息状況の調査を進めている。環境省の調査では、全国的には2014年をピークに推定個体数は減少しているが、瀬戸内海では03年ごろから島に渡る姿がたびたび目撃されてきた。

 家島諸島ではスギやヒノキの植林がなく、餌となる木の実が豊富。その影響からか、濱野さんが所属する猟友会によると、島のイノシシは「明らかに成長が早い」という。家島の4島では20年度、60頭以上が捕獲され、人的被害が発生しかねない状況だ。本島や坊勢島と同様に個体数が急増しているとみられる西島では、県立いえしま自然体験センターの職員6人も狩猟免許を取得して捕獲を進めている。

 海に囲まれ、民家と山が近い家島本島ではわなの仕掛け場所にも配慮が必要となる。「家族や島の人にけがさせんようにと免許を取ったのに、わなにかかったイノシシが暴れて誰かにけがさせたら元も子もない」と濱野さん。

 島の安全を守ることを第一の使命としつつ、自ら仕留めた個体を試食してみたところ「驚くほどの味」で、「いつか島の名物になってくれへんかな」とも。解体や販売には資格や施設が必要で特産化への道は遠いが、島のハンターはピンチがチャンスに変わる日を夢見て汗を流している。

3/31(水) 8:30配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/07abb1852f31527e2aa104ff25a51666431ddbfc
https://i.kobe-np.co.jp/news/himeji/202103/img/a_14197350.jpg