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 台湾のパイナップルが突然、最大の輸出先である中国から「禁輸」された問題は、中台関係の悪化による中国の「制裁」が、フルーツ王国として知られる台湾の農業分野にも及んできたと受け止められた。一方で、日本では台湾パイナップルの購入運動が広がるなど、国際的な波紋を広げている。パイナップル禁輸騒動の背後には、14億人の巨大市場を利用する中国外交のあり方に対する世界の困惑と反発がある。

 一通のファックスが台湾全体を震撼させた。届いたのは2月25日。台湾のパイナップルから害虫が検出されたとして、3月1日から台湾産の輸入を禁止するという中国の税関「海関総署」からの通告だった。台湾側は中国向けの99.8%がこれまで検疫に合格しており、検出されたとしても燻蒸消毒で対応ができると反論したが、中国側の措置は変わらなかった。
緊張高まる中国と台湾

 中国の習近平指導部は、台湾に「一つの中国」原則を呼びかけているが、蔡英文・民進党政権は拒絶している。対話は凍結状態になっており、中国軍機による台湾の防空識別圏侵入が連日のように行われるなど緊迫した局面も多い。蔡英文政権は米国との安全保障などでの関係強化を図り、さらに中国は反発するという悪循環だ。

 そんななかでの禁輸措置だけに、台湾側は貴重な外貨獲得手段であるフルーツをターゲットにした新たな「制裁」と受け止めた。その背景にあるのは、中国による「市場」を人質にして外交圧力をかける手法が、近年繰り返されてきたことがある。

 過去にも、ノーベル平和賞を劉暁波に与えたノルウェーに対するサーモン禁輸、南シナ海の南沙諸島領有権で対立したフィリピンへのバナナ禁輸、そして最近では新型コロナに関して中国を批判したオーストラリアの牛肉やワインへの輸入制限など、中国はいずれも対立を抱えた相手に対して、農産品などの輸入問題に絡めてプレッシャーをかけている。
民進党支持者の多い南部が生産拠点

 台湾では、パイナップルの産地は、南部の屏東県(30%)、高雄市(14%)、台南市(14%)などで、基本的に政権与党民進党の強い地域と重なっている。南部の農家に打撃を与えることで蔡英文政権を揺さぶる狙いもあるとみられた。中国への輸出は、輸出パイナップルの97%に達する。大口顧客の突然の禁輸に、生産者には動揺が広がった。

 それをカバーすべく、台湾政府は国内消費の拡大と輸出振興を打ち出した。呼応するように台湾パイナップルの購入運動が起きたのが日本だった。中国も日本で台湾パイナップルの消費ブームが起きるとは想像できなかっただろう。日本ではちょうど、台湾から巨額の義援金を震災支援で送られた東日本大震災から10周年を迎えたタイミングで、台湾への「恩返し」の機運が高まっていたのも大きかった。
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(略)