「マスク会食」に応じない客の入店拒否や退店要請――。新型コロナウイルス対策の「まん延防止等重点措置」が5日にスタートし、適用対象地域の大阪市では飲食店にこうした対応が求められることになった。「お客に強制するなんて無理」。店主から困惑の声が上がる大阪の繁華街を、記者が歩いた。

大阪で「見回り隊」が巡回スタート

 ミナミの「串かつだるま 法善寺店」(中央区)では、開店1時間前の午前10時に店長らが集まり、15枚のアクリル板を追加で設置した。マスク会食を呼び掛けるため、通常は3人のスタッフを6人に増やす対応もした。

 これまではマスク会食をする客は全体の1割程度だったといい、店長の佐々木陽さん(40)は「串カツはソースをつけるし、マスクを着けながらでは食べにくい。お客さんにどう説明したらいいのか」と頭を悩ませる。

 近くの居酒屋「竜田屋」では午後4時半ごろ、店長の中西佑哉さん(40)が「お食事中以外のマスク着用にご協力ください」という張り紙を作っていた。アクリル板や、換気を促すために二酸化炭素(CO2)濃度を測定するセンサーも急きょ購入。約10万円かかったが、「コロナを収束させるためには、みんなが一体にならないと駄目」と気を引き締めた。

 ただし、実際にマスク会食をする人はほとんど見られず、大声で話す団体客も。飲みに訪れた男性(43)は「行政はマスク会食より、『家で食事して』と呼び掛けた方がいいのでは」と話した。

 大阪駅前第2ビル(北区)では午後5時半ごろ、「大阪市」の腕章をつけたスーツ姿の男性職員2人が中華料理店に入った。この日発足した「見回り隊」のメンバーだ。職員らは店内を見渡し、従業員から感染対策状況を聞き取ると、手元にあるチェックシートに記入していった。店側によると、感染者の発生情報を通知する「大阪コロナ追跡システム」のQRコードを示しているかや営業時間の短縮要請に応じているか、アクリル板を設置しているかなどを確認されたという。訪問時間は10分程度。職員らは店を後にすると、隣のうどん店に入っていった。

 大阪府の吉村洋文知事が、まん延防止措置としてマスク会食のほか、飛沫(ひまつ)感染を防ぐアクリル板の設置を飲食店に義務づけると表明したのは1週間前の3月29日。このため準備が間に合わない店もある。阪急東通商店街(同)のお好み焼き店「美舟」では午後5時半ごろ、店主の船橋修治さん(72)が客に「マスクしてや」と話し掛けていた。注文したCO2センサーがまだ届かないといい、「もっと早く言ってほしかった。換気もしているし、これ以上の対応は難しい」とこぼした。女性客(37)は、マスクを片耳にぶら下げながら食べるマスク会食を実践したが、「ソースやにおいがマスクにつきそうで、徹底するのは難しい」と戸惑っていた。

 時短要請に応じて午後8時には大半の店が閉店したが、一部には深夜まで営業する店もあった。

 飲食店では、カラオケ設備の利用自粛も求められている。カラオケ居酒屋が建ち並ぶ新世界(浪速区)のある店は5日から休業した。40代の男性店員は「カラオケを楽しみに来てくれたお客に『歌うな』とは言えない」と苦渋の表情。一方、別の店の女性経営者(75)は「カラオケを自粛するぐらいなら店をやめる。マイクを使うごとに消毒するなど、感染対策を徹底して続けたい」と話した。【古川幸奈、宮川佐知子、柳楽未来、郡悠介】

専門家「新たな社会規範に」

 大阪市や神戸市などで5日から適用された「まん延防止等重点措置」について、専門家は効果を上げることの難しさに加え、措置を機に「マスク会食」などを新たな社会規範とする必要性を訴えている。

 関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は、年明けの緊急事態宣言が効果を上げられなかったとし、「建前の効果ではなく、新たなメッセージ性を出すことに意味があり、『まん延防止措置』という違う看板を出す必要があった」と分析。「何も対策を取らなければ、医療崩壊へまっしぐら。少しでも感染拡大のスピードを落として時間稼ぎする意義はあるだろう」とし、大阪府の吉村洋文知事が打ち出したマスク着用義務化については、「手札の中で精いっぱいの対策なのではないか」と話した。

 

2021年4月5日 21時28分
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