<ヘイトクライム全体は減っているのに、アジア人への暴力は150%も増加。黒人差別の影に隠れてきたアジア差別の歴史>

子供の頃、私と兄が決して行かない通りがあった。アメリカの一角では、アイルランド系カトリック教徒と「WASP」──アメリカの建国者であるアングロサクソン系プロテスタントの白人──の間に社会的な力学が働いていた。アイルランド系の子供が、私や兄に石を投げることもあった。

私たちの先祖は、アメリカに旧世界の民族的、宗教的分断を持ち込んだ。しかし一方で、彼らは部族的な帰属を否定する人間主義的な啓蒙主義を追求する社会を築いた。

私は自分に石を投げた少年たちとアメフトやホッケーをして、彼らの姉妹とデートをし、私の先祖の裏切りを糾弾するようなアイルランドの民族音楽に傾倒した。それがアメリカで育つということだった。

そして60年後の今、民族的な多様性と経済的な格差が、ポピュリズムと白人至上主義の「アメリカ・ファースト」の形で爆発した。ドナルド・トランプ前大統領と共和党は、「チャイナ・ウイルス」が死と混乱をもたらしたと中国を責め、ひいてはアジア人に責任を転嫁して、自分たちの政策の失敗を言い逃れようとしている。

偏見や憎悪が引き起こすヘイトクライムは、2019年から20年にかけてアメリカ全体で7%減少しているにもかかわらず、アジア人を標的とする暴力は150%増えている。相次ぐ残忍な暴力に、アメリカは恐れおののいている。

■黒人奴隷制という「原罪」に隠れて

もっとも、アメリカの反アジア感情の歴史は、黒人奴隷制という「原罪」の陰に隠れていたにすぎない。1840年代にアメリカの鉄道建設やゴールドラッシュに沸く鉱山で働いた中国人労働者「苦力(クーリー)」は、ひどく嫌われ、恐れられて、1882年に中国人排斥法が制定された。「黄禍論」と呼ばれる1890年代のアジア人脅威論は、東洋人が白人を圧倒するという恐怖心であり、一世代の意識を支配した。

第2次大戦中は、米国籍を有する人を含む多くの日系人が強制収容された。1960年代にアジア系の隣人(後に私の妻と義理のきょうだいになる人々)は、「チンク」「故郷に帰れ」と罵声を浴びた。

指導者がある集団を悪魔化すると(トランプは「チャイナ」を軽蔑するように発音した)、その支持者は彼らを悪魔と思い込み、敵意を募らせる。暴力は、社会的変化をもたらす「他者」への恐怖や、マイノリティーの台頭によるマジョリティーの地位低下から生まれる。指導者による特定の集団への糾弾や警告は、理性に訴えるよりはるかに強力に人々の認識に影響する

4/6(火) 19:26
https://news.yahoo.co.jp/articles/fa5d9520dced4c2467644595c888ae789fd08c25